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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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14/21

第14話 奉龍院コンツェルンの影

 ――変化は突然訪れる。

 翌日、出社した俺は社内で奇妙な噂を耳にした。


「なあ聞いたか? 水無月が買収されるかもしれないって」

「そんな馬鹿な……だって水無月だぞ? 業界でもトップクラスの……」


 耳を疑った。

 うちの会社を敵対的に買収しようなんて、まともな企業のやることじゃない。

 だが日を追うごとに、噂は現実味を帯びていく。取引の妨害、株価を揺さぶる根拠のない風評、ネットに溢れる悪意ある記事。

 どう考えても意図的な工作だ。


(いったい誰が……何のために?)


 そう首を傾げながらも、俺は内心、紗彩との関係に変化がないことにホッとしていた。

 一週間経っても薬の効果が切れて破局する気配はない。……神様の言葉は本物だったのだろう。


 だが、のんきに安堵していられる状況ではなかった。





 一週間後。

 俺は再び社長室へと呼び出された。しかも今回は――紗彩にも直接連絡が入り、同席を求められたという。


「一体何があったんだろうな」

「……」


 隣を歩く紗彩は、何かを知っているのか口をつぐんでいる。

 伝わってくる感情は不安というより、覚悟に近い。――どうやら悪い知らせではないらしい。


「失礼します」


 扉を開けると、重苦しい空気の中で社長と、その隣に夫人が並んで座っていた。

 紅茶すら出てこない。相当な話だとすぐに察せられる。


「座り給え」

 促され、俺と紗彩はソファに腰を下ろした。


 社長は組んだ指を前に置き、低い声で口を開く。


「実は――現在、我が水無月コーポレーションが強烈な買収工作に晒されている」


「やはり……! 一体どこからですか?」


 俺が問い返すと、社長は重々しく告げた。


「奉龍院コンツェルンだ」


「――っ!?」


 社長夫人の表情にもわずかに険が走る。

 俺も思わず声を荒げそうになるのを抑えた。奉龍院といえば、世界規模の巨大財閥。水無月に並ぶか、それ以上の規模を誇る絶対的な存在だ。


「なぜ……? 友好的に提携すれば済む話ではありませんか。わざわざ敵対的買収など……」

「その通りだ。理に適っていない。……どうやら奉龍院のトップが経営方針を大きく転換したらしい」


 社長は苦い顔で言葉を続ける。


「向こうの事情がどうあれ、このままでは買収に至らずとも、我が社の業務に甚大な被害が出る。すでにその兆候は見えているだろう」


 確かに。すでに取引先やネット上での風評被害が深刻だ。

 これ以上広がれば、水無月といえど無傷では済まない。




「そこでだ」

 社長はわずかに身を乗り出し、隣の夫人と視線を交わした。

「今回の買収工作に対抗するため、強力な助っ人を迎えることにした。……まずは紹介しよう。紗彩」


「はい、社長」


 紗彩は立ち上がり、社長室に隣接する控室の扉を開いた。


「こんにちは」


 現れた人物の姿に、俺は言葉を失った。


「――っ!?」


「本日より特別アドバイザーとして着任いたしました。愛沢深雪と申します」


 俺の、お隣さん――愛沢深雪さんが、堂々と名乗りを上げていた。



「今回、奉龍院からの買収攻撃に対して企業を守るために力を借りることになった愛沢深雪さんです」


 社長の紹介に続いて、隣に座っていた紗彩が穏やかな笑みを浮かべる。

「愛沢深雪です。以後お見知りおきを」


 ――いやいや、ちょっと待て。


「……あ、愛沢さん、ですよね?」

「はい。愛沢深雪です」


 俺の情けない確認に、天使みたいな笑顔であっさり返す深雪さん。

 いや、そりゃそうなんだけどさ。普段はふんわりワンピースで近所に買い物に行く姿しか見てないんだぞ? 今目の前にいるのは、ピンク色のスーツにタイトスカート、真っ白なタイツ、首元にスカーフ……バリバリのキャリアウーマンだ。ギャップが凄すぎて一瞬誰か分からなかったくらいだ。


「な、なんで愛沢さんが水無月に……? その制服も、普通のOL服じゃないですよね」


 俺の問いに社長が重々しく頷く。

「先日、彼女にはわが社の筆頭株主になってもらい、経営陣に加わっていただくことになった」


「ひ、筆頭株主!? 社長、それってどういうことなんですか!」


 声が裏返った俺をよそに、夫人――つまり紗彩の母も柔らかく口を挟んだ。

「驚くのも無理はないでしょうね。でも、これが最善だと私たちは判断しました」


 社長が続ける。

「彼女は数年前に逝去された奉龍院上ノ介翁の後妻であられたのだ」


 それは俺も知っている。だが――何故今ここに?


 深雪さんはまっすぐ俺を見て言った。

「篠宮さん。私は奉龍院のやり方を知り尽くしています。どんな仕掛けをし、何を狙うかも。だからこそ、水無月を守るためのお役に立てるはずだと考えています」


「……そうだったんですか。ですが、どうしてそこまで?」


 そこで社長がにやりと笑う。

「それが、今日君を呼んだ理由だ」


◇◇◇


「条件?」

「そうだ。彼女が救済の手伝いを申し出る代わりに、ある条件を提示してきた。そして――その条件を提案したのは紗彩自身だ」


「えっ、紗彩が!?」


 思わず隣を見ると、紗彩は真剣な表情で頷いた。


 社長は言葉を区切って告げる。

「その条件とは……わが社で新たに創設する“解決課”のリーダーに、君を据えることだ」


「解決課……?」


 俺の頭に真っ先に浮かんだのは某特命係長の顔だった。いやいや、そんなノリでやれる仕事じゃないだろ。


「具体的には?」

「社内のトラブルの芽を事前に摘み、問題を未然に防ぐ――いわば社内の解決屋だ」


「特命の……アレみたいですね……」


 俺の心の声が漏れていたらしい。夫人がクスリと笑った。


 社長はさらに言葉を重ねる。

「奉龍院からの買収には、裏で内通者が関わっている可能性が高い。君には、その暗躍する分子を炙り出す役目を担ってもらいたい」


「な、なんで俺なんですか?」


「君が最も私欲なく、敵対行動を取っていないと確信できる人物だからだ。……紗彩の恋人だから、という理由ではない。水無月を託すに足る人間だと、私自身の目で判断した結果だ」


 ……正直、照れる。

 俺は人前に立つタイプじゃない。ただ、部下の才能を支えるのが好きなだけだ。


 そんな俺の心を見透かしたように、夫人が優しく言葉を添える。

「篠宮さん。あなたは自分で思っている以上に、この会社に貢献しています。部下の皆さんが“育ててもらった”と口を揃えるのも当然です。それに、これは紗彩の願いでもあるのです。……引き受けてくださいますね?」


「……わかりました。紗彩を守るためにも、この会社を奉龍院に渡すわけにはいきません。やります」


「そうか!」

 社長が大きく頷き、夫人も安堵の笑みを浮かべる。

「よかったわね、あなた」

「うむ。君が動いてくれるなら心強い」



 しかし、ここでまだ腑に落ちない点があった。

「ですが、それがどうして愛沢さんが条件に絡んでくるのですか?」


 深雪さんは落ち着いた口調で答える。

「奉龍院のやり口を知る私が、この会社で活動するパートナーとして、最も信頼に足る人物を指名した。それが篠宮さん……あなたです」


 さらに言葉を続ける。

「奉龍院は一筋縄ではいきません。特に長子の奉龍院・和時。経営者としては天才ですが、人間としては最低です。そして、彼は紗彩さんを狙っています」


「な……!?」


 隣の紗彩の肩がビクリと震えた。


「以前、交流会を兼ねたパーティーで……」

「はい。あの人の好色そうな目が気持ち悪くて、食事の誘いを断りました。その日から嫌がらせのようなことが続いて……証拠はないのですが」


「あり得ますね」


 深雪さんが冷静に頷く。


「彼は女を玩具としか考えていませんから」


 社長が渋い顔で手を組んだ。


「内通者も、恐らくは上層部にいる。検討はついているが、証拠なしに動くわけにはいかん。親としては複雑だが……ここは篠宮君の目で探り、暴いてほしい」


「……わかりました」

 俺は大きく息を吐き、決意を固めた。

「紗彩を守るためにも、この会社を奉龍院に渡すわけにはいきません。……解決課、引き受けます」


「そうか!」

 社長は目を細め、深く頷いた。

「よかったわ、あなた」

 夫人も隣で微笑み、胸を撫で下ろすような仕草を見せる。


「随分と信頼されてるみたいですね、俺……」

「それだけのことをしてきた自覚を持ちなさい」

 夫人が少し意地悪そうに笑う。

「部下の誰もが、あなたに育ててもらったと言っていたわ。……篠宮さん、謙遜しすぎはかえって罪よ?」


「……耳が痛いですね」

 恥ずかしさで頬が熱くなる。


 そこで深雪さんが静かに口を開いた。

「篠宮さん。私は奉龍院のやり口を骨の髄まで知っています。彼らがどこに罠を仕掛け、どんな形で牙を剥くのか……その予測は、他の誰よりもできます。だからこそ、あなたの“後ろ盾”として働きます」


「後ろ盾、ですか」

「ええ。表に出るのはあなた。私はその影に控え、助言をする立場です」


 その目は冗談の一片もなく、ただ真っ直ぐだった。

 普段の柔らかな雰囲気からは想像できない、戦場を知る人間の目。


「……頼りにさせてもらいます」

 思わず背筋が伸びた。



 社長が口を開く。

「篠宮君。証拠がない以上、内通者を名指しすることはできん。しかし、君が“解決課”として探り、暴くことができるなら……水無月は守れる」


「はい」

 言葉に迷いはなかった。


 その瞬間、紗彩が俺の袖をぎゅっと掴んだ。

「ありがとう、隆行さん……」

 心配そうに揺れる瞳。俺は軽く頷いて返した。



「篠宮さん」

 深雪さんが、少し言いづらそうに声をかけてきた。

「今夜、少しお時間をいただけませんか。……お話ししたいことがあります」


「ええ。俺も聞きたいことがありましたから」


 そうして俺たちは、それぞれの想いを抱えたまま社長室を後にした。


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