縮む距離
ギルドを出ると、レオンが手を振った。
「こちらです。町で一番の酒場へご案内します」
石畳を抜け、賑やかな通りへ。
看板には大きな麦の紋章。
扉を開けると、熱気と笑い声が一斉に押し寄せた。
「いらっしゃい!」
店主の声が響く。
木製の長机に並ぶ料理。肉の焼ける匂い。香辛料の刺激。
黒瀬は一瞬立ち尽くす。
(……すごいな)
席に着くと、レオンが言う。
「今日は、私たちの奢りです。
遠慮なさらず、たくさん召し上がってください!」
「ありがとうございます」
セラが即座に割り込む。
「命の恩人なんだから!このくらいさせて!
ほらこれ!名物の串焼き!」
皿がどんどん並ぶ。
ミリアは静かにスープを勧める。
「こちらもおすすめです。滋養に良いと聞きます」
黒瀬はフォークを手に取り、恐る恐る口に運ぶ。
「……うまい」
セラが身を乗り出す。
「ででで! 黒瀬さんって何歳? 好きな食べ物は? 恋人は?!」
「セラ、そんな一度に質問したら、黒瀬さんが困らせてしまいますよ」
ミリアがすかさず止める。
「えー、だって気になるじゃん!」
黒瀬は少し困った顔をする。
「……十七です、恋人はいません」
好きな食べ物は……今食べてるこれ」
セラが吹き出す。
「なんか真面目!」
ミリアが少し身を乗り出す。
「では……どのような方が好みですか?」
セラがニヤリと笑う。
「ミリアって意外と…攻めるよね…」
「み、ミリア…」
「べ、別に私が気になっているわけではなくて!」
「はいはい!そういうことにしとくよ~、ミリア」
「セラ!違います、もう…」
黒瀬はしばらく黙り、ぽつりと。
「好みは…特にありません…それに、俺みたいなのを好きになる人なんて、いないと思いますよ」
二人が止まる。
「なんで?」
「どうしてですか?」
黒瀬は視線を落とす。
「目つき悪いし、怖がられるし、もう……慣れてますけどね」
一瞬、空気が変わる。
レオンが静かに言う。
「それは……きっと、見る目がないのでしょう」
ミリアも頷く。
「まだ会って間もないですが、すぐに分かります」
セラは腕を組む。
「そうだよ! 黒瀬さん、優しいじゃん!
笑えば絶対モテるって!」
「セラ!」
「何よ!」
言い合いが始まる。
黒瀬は、ふと三人を見る。
笑っている。
言い合いながらも、どこか楽しそうだ。
(そんなこと、初めて言われたな……それにしても、仲良しだな)
そのとき、レオンが黒瀬の服に目を向ける。
「その装い、素敵ですね、
母国のものですか?」
黒瀬は一瞬だけ、言葉を選ぶ。
「この服は学ら…ん…じゃなくて、そんな感じです」
レオンはそれ以上踏み込まない。
ミリアが柔らかく言う。
「素敵ですが……
この町で活動するなら、少し装いを変えた方がよいかもしれません。
視線が、集まりますので」
「だったら! おすすめの鍛冶屋あるよ!
オルグさんの店! 腕は確か!」
黒瀬は苦笑する。
「でも、まだ……タリス、でしたっけ、
持っていなくて」
レオンが静かに袋を取り出す。
まとまった金属音。
「今日の依頼成功は、黒瀬さんのおかげです。これは、黒瀬さんの分です」
「いや、それは……受け取れません」
セラが身を乗り出す。
「いいから!」
ミリアも真剣な目で言う。
「どうか、お受け取りください」
レオンは穏やかに笑う。
「これは、当然の分配です。遠慮は無用です」
三人の視線に押される。
黒瀬は、ゆっくりと袋を受け取った。
「……ありがとうございます」
時間は流れる。
料理は減り、笑い声が続く。
黒瀬は、三人の笑顔を見ていた。
自然と、口元が緩む。
それは、初めての、満面の笑みだった。
三人が止まる。
「……え」
セラが指をさす。
「ちょ、ちょっと! 今の!」
ミリアが目を丸くする。
レオンが穏やかに微笑む。
「黒瀬さんは、もっと笑った方がいいですね」
黒瀬は少し照れ、視線を逸らす。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。




