表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闘神を宿す拳で、異世界を歩く  作者: 朝霧ネル
第一章 赤き刻印の目覚め
3/12

圧倒的強さ

炎の壁が、音を立てて揺らめいている。逃げ場はなかった。

――闘神ゴウラは、腕を組み、黒瀬を見下ろしている。


「構えろ、人間」


次の瞬間だった。ゴウラの片腕が、何の前触れもなく振るわれた。

黒瀬は反射的に地を蹴り、横へ跳ぶ。拳が通った地面が、砕け散る。

石の円盤の端が、まるで紙のように割れた。


「……っ」


——片腕を振っただけで、この威力…!?


黒瀬は歯を食いしばり、距離を取る。正面から殴り合えば、終わりだ。


(こんなの…勝ち目なんてない…決闘?ふざけんな…!)


黒瀬は、低く構えた。次の一撃が来る直前、ゴウラの踏み込む足を見る。


(俺に今できることを考えろ…!)


黒瀬は拳を振るわず、踏み出してきた足首へ、全体重を乗せた踵を叩き込んだ。

ビクともしないが、ゴウラの体勢がほんのわずか崩れる。


黒瀬はその一瞬を逃さず、肘、膝、関節――動きの起点を狙い続けた。

攻撃を交わしながら、黒瀬の声が漏れる。


「なんでこんなことになってんだ…くそ!」


一瞬の隙、黒瀬は殴り飛ばされ、地面を転がる。

肺から空気が抜け、視界が白くなる。


(わけが…わからない…知らない場所に来たと思えば…いきなり…決闘…なんなんだよ…こいつは…この世界は…!)


黒瀬は朦朧ながら立ち上がり、ゴウラの拳を間一髪で避け、黒瀬の肩をかすめる。

骨が、悲鳴を上げた。


(あぁ…全身が…痛い…激痛だ…)


「こんなものか、人間というものは」


「――守るべき者が現れた時、お前じゃなにも守れない、哀れな人間だ」


その言葉に、黒瀬の思考が一瞬止まる。


「……っ」


「……言われなくても、そんなの分かってる、勝ち目がないのも…」


「でも、諦める気は一切ねぇよ」


黒瀬は、血の味を噛みしめながら、再び踏み込む。

あらゆる方向から打撃を与えるが全部効かない。

ゴウラの動きが、確実に“対応”へと変わっていた。


「まだ動くか…ちょこまかと、人間にしては、しぶとい」


初めて、評価が混じる。最後の力を振り絞り、黒瀬は渾身の拳を放った。

だが、ゴウラは微動だにしない。

次の瞬間、片腕の一撃が、黒瀬を吹き飛ばした。

地面に叩きつけられ、息が、できない。

視界が、暗くなり、膝が震える。黒瀬の拳が、開きかける。


「……一思いに……やれ……」


声は、静かだった。ゴウラは、しばらく黙って黒瀬を見下ろしていた。

やがて、腕を組む。


「終わりか…人間」


「……」


「……力を持たぬ身で」


「勝てぬと知りながらも足掻き、攻めの姿勢を緩めなかった、お前をそこまで搔き立てるものはなんだ…?」


「いいから…はやく…やれ…」


黒瀬の視界が、ぼやける。ゴウラの炎が、静かに揺れる。


「……気に入った、お前が歩む未来を――少し、見てみたくなった」


「黒瀬 と言ったな…わしは、お前に宿ろう」


闘神の気配が、黒瀬の胸へと沈み込んでいく。

意識が、闇に落ちた。


……気づけば、朝だった。


瞼を閉じているはずなのに、柔らかな光が、はっきりと分かる。

黒瀬は、ゆっくりと目を開いた。木々の隙間から差し込む朝日。鳥の鳴き声。

夜の森とは、まるで別の場所のように穏やかだった。


「生きて…る…」


喉から漏れた声は、確かに現実のものだった。

身体を起こし、周囲を見渡す。あの赤く燃え盛るゴウラの姿はない。


けれど――昨夜の出来事は、夢のように曖昧ではなかった。拳を交えた感触。圧倒的な力。一撃一撃が、骨に残っている。


(……全部、覚えてる)


黒瀬は、自分の手を見下ろした。擦り傷も、血もない。だが、あの戦いで――何一つ通じなかった感覚だけは、はっきりと残っている。


「何も…できなかった…」


そのときだった。両手の甲が赤く光る。視線を落とすと、そこには見覚えのない紋章が刻まれていた。


赤黒く、まるで焼き付いたような文様。脈打つように、淡く光っている。


「……なんだ、これ……」


指で触れようとした瞬間――胸の奥に、低い声が響いた。


「目覚めたか」


「その声……」


「昨日のことは、夢ではない」


「わしは、お前が気に入った――お前の歩む未来が見たくなった、わしの力を、託そう…」


「冗談、だろ……」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ