街の温度
採寸が終わり、オルグは腕を組んだ。
「二日後だ。それまで楽しみにしてな!」
「わかりました。よろしくお願いします」
黒瀬が頭を下げると、オルグは満足げに頷いた。
店を出ると、レオンが柔らかく笑う。
「このあと、お時間ありますか? よろしければ、街をご案内しますよ」
黒瀬は少し驚いたが、すぐに頷いた。
「ありがとうございます……ぜひ、お願いします」
「やったー!!」
「いいですね、ゆっくり案内できます」
ミリアも微笑む。
それから四人は街を歩いた。
石畳の大通り。露店の並ぶ市場。香辛料の匂いが漂う通り。
鍛冶屋通りの熱気。魔道具店のきらびやかなショーケース。
「ここはね、冒険者御用達のパン屋! 朝一で行かないと売り切れちゃうんだよ!」
「セラは食べ物の情報だけは早いですね」
「だけってなにー!」
レオンは苦笑しながら説明を続ける。
「アウレイアは連邦国家なので、他国からの移住者も多いんです。
だから文化も混ざっていて、比較的自由なんですよ」
黒瀬は静かに街並みを見つめる。
(……活気があるな、誰もが自分の居場所を持っているような、そんな顔をしている)
市場で果物を試食させられ、道端の子どもにぶつかられ、
セラが勝手に値切り交渉を始め、ミリアが慌てて止める。
「セラ! 勝手に交渉しないでください!」
「えー! だって絶対高いってこれ!」
「本当にもう……」
その様子を見て、黒瀬は小さく笑った。レオンが気づく。
「黒瀬さん……楽しんでいただけていますか?」
「はい、とても楽しいです」
三人が、少し驚いた顔をする。やがて空は橙色に染まる。
夕暮れの鐘が鳴り、レオンが立ち止まった。
「今日は、このあたりにしましょうか」
「はい。案内、ありがとうございました」
黒瀬は丁寧に頭を下げる。セラがレオンの袖を引っ張る。
「ねえ、レオン。そろそろ明日の準備しなきゃじゃない?」
レオンは頷く。
「そうだね」
ミリアも真面目な顔になる。
「灰牙の迷宮は駆け出し推薦と言っても、明日行く階層は油断できません。物資の確認をしておきましょ」
レオンは黒瀬を見る。
「黒瀬さんは、明日はどうなさるんですか?」
黒瀬は少し考えてから答える。
「まずは……キーナさんに聞いて、初歩の依頼から受けてみようかと…
色々経験を積まないと、と思いまして」
セラがすぐに口を挟む。
「えー!そしたらさ!一緒に行こうよ!絶対楽しいって!
それに黒瀬さんがいれば、こっちも助かるし!」
レオンが静かに制する。
「セラ」
ミリアも小さく首を振る。
「黒瀬さんにも、やることがあるんです!黒瀬さん、セラがすいません」
セラは不満げに唇を尖らせる。
「なんでよー!経験だったら迷宮でも積めるし、いいじゃん!」
「セラ、いいから帰りますよ、黒瀬さんを困らせないの」
「ちょ、ちょっと引っ張らないで!」
ミリアに腕を掴まれ、ずるずると引きずられていく。
レオンは最後に振り返る。
「……どうか、気を付けてください、無理はなさらないように」
黒瀬は静かに頷いた。
「はい。皆さんも」
黒瀬は一人、立ち尽くす。
(迷宮か…そのほうがよかったのかな…)
(でも、まずはひとりでやれることをやってみよう)
胸元のギルドタグに触れ、ゆっくり歩き出した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。




