可愛げがないと言われた私が、バルコニーの先で星を拾いました
※本作は短編です。
よろしければ、気軽に読んでいただけると嬉しいです。
「なんで!お前はいつも、俺の言葉に言い返すばかりなんだ!」
華やかな夜会の場に、響きわたる婚約者の声。
「いつもいつも……!本当に可愛げがない!うんざりなんだ!」
「ふふふ。うんざりなのが、あなただけだと思ってまして?」
私も言い返す。
黙っているなんて性に合わないわ。
「ああ、わかった!お前みたいな可愛げがない女は、もういらない!婚約なんて願い下げだ!さっさと消えろ!」
「兄さん!」
私とロバートの間に見慣れた男性が割り込んできた。
声が震えて、その視線も、ロバートを避けているようだった。
――彼の弟のロアンだ。
「これ以上、彼女に酷い事を言わないでください。……あなたも知っているはずでしょう」
ロバートに言い返す前に、彼は一度、息を吸い込んだ。
目立つことが嫌いな彼が、声を上げている。
「ああ、なるほどな!弟までたらし込んでたのか!」
「……な!」
私が言い返そうとした瞬間、視界が暗くなった。
頭を抱え込まれ、男性の胸に引き寄せられる。
一生懸命、私の耳を塞ごうとしているみたいだった。
視界が誰かの髪に遮られた。……ロアン?
途切れ途切れに声が聞こえる。
押しのけようとしても、彼は私の耳をそっと包むように、それでも力強く抱え込んでいた。
――え、なに?何がおきてるの?
いきなり抱え込まれてわけがわからないわ!
「お前は!とんだ女狐だ!まるで、娼婦のようだな!」
「……これ以上は耐えられない。いくら兄さんでも言っていい事があるでしょう……」
私を抱え込んでいる腕が震えている。
これは、本当にあのロアンなの?
いつも、私たちに付いてきていた、小さな彼?
この腕の感触。体温。
それでも、守ってくれていると、心のどこかで感じる。
そこで、ふっと息がつけた気がした。ぽんぽんと、安心させるように彼の腕を叩く。
それに気づいたのか、力を緩めてくれる。
「ええ、負け犬が煩くてうんざりですわね。見下している女一人にギャンギャン吠えている方がよっぽど恥ずかしいとお気づきなさい!」
「な、なんだと……!この!」
ロバートが私の腕を掴もうと手を伸ばしてくる――が。
いきなり抱き上げられた。
「きゃーー!!」
「すみません、これ以上はここに……あなたをいさせたくないんです……!」
――え?そっちは、バルコニーなんだけれど……!?
ここって何階だったっけ!?……2階!?
「な、な、なんで……!ま、まさか……!」
「大丈夫です……!僕が骨折しても、絶対に手を離しませんから……!」
「それは、大丈夫とは言わないのよ……!」
バッ!と身体が宙を舞った。
目の前には夜空の星が散った……。
――って! 死ぬかと思ったわ!
無事に着地できたみたいだ。
着地の衝撃はそれなりにきた。
一瞬、地面に叩きつけられたかと思ったけれと……。
心配そうに私を抱えて、見下ろしている彼にそっと指を伸ばした。
髪に隠れた瞳をすくい上げる。
「ねぇ、あなた、なんで前髪で顔を隠してるの?」
「え……」
ロアンは驚いた声を上げ、目を瞬かせた。
それは、この夜空の星みたいな、瞳たった。
それまで私を見つめていてくれた輝きが、ふいっと逸らされる。
露わになった耳が赤くなっている。
――かわいい。
こんな眼差しを受け止めたことはなかった。
「それに、淑女の醜態をさらされた責任は取ってもらいますわ。あんなに大声を出して……!ふふふ!」
「す、すみません。あれ以上、あなたに傷ついてほしくなくて……。だって、だって、あなたは誰よりも……!」
ようやくこちらを向いてくれた、彼の顔を包み込む。
「そうねぇ。じゃあ、顔を上げて。背筋を伸ばして……証明してごらんなさい」
「……!は、はい!」
強がった私の言葉にも、素直に答えてくれる彼が、何故かとても――。
「でも、私は今さらあんな言葉では傷つかないわよ?」
「そ、それでも……。それでも、本当は傷ついて泣いていたでしょう?……僕はあの時は声をかけられなかったけれど」
過去の話を持ち出されて、動揺してしまう。
「……!そ、それは……」
「でも。もういいですよね?……僕だって男です。ずっとあなたを想っていた……男なんですよ」
男?そんなの最初から知ってる……。
けど、こんなに逞しい腕だったかしら。こんなに力強くて私を抱き上げ……。
(……!な、なに?そんな瞳で!)
赤い顔で、とても嬉しそうに、切なそうに私を見つめる瞳。
彼はそっと私の唇に触れた。……髪の毛を避けてくれたみたいだけれど……。
なに?顔があげられないわ。――こんなの私じゃない。しらない……。
「ヴィオラ嬢?」
「……!!」
「……私、いつも生意気だって言われてたのよ。泣きたいときは、いつも星空を見上げていたわ……」
「今度から、……私だけのお星様を手に入れてもいいかしら」
彼は静かに、息を呑んだ。
「僕だって……ずっと憧れて、追い続けてきた人を、
手に入れても、いいですか?」
「ようやく見つけた、
私だけの星だもの。もう手放さないわ」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少し雰囲気を変えた短編でしたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
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