モブの舞踏会
どうも。モブです。
今日はモブ貴族として国王陛下主催の舞踏会に参加してます。
顔も描かれずに背景で当り障りなく踊る役回りです。
主役級の皆さんの邪魔にならない範囲で、豪華な料理を摘まみつつ楽しんで帰ろうと思います。
さて、会もたけなわ。
おや? 何やらアークヤック公爵令嬢とその婚約者であるザマール殿下が揉めていらっしゃる。
ここはモブとして、一体何事かとざわざわしておこう。
ごく自然な流れでお二人を囲む人垣の一部に。
と、俺の目の前にいた貴族の青年が急にそわそわし始めた。
「……だめだ、我慢できない。ちょっとトイレに」
青年はそそくさと出て行く。
その位置が空いてしまったので、やむなく俺が前に出る。
「アークヤックよ、君との婚約を破棄する!」
うお。殿下、急に来た。
「婚約破棄?」
「どういうことだ」
ざわざわ。ざわざわ。俺もみんなと一緒にざわざわする。
「アークヤック、君は彼女に陰湿ないじめを繰り返していたそうだな」
ザマール殿下の傍らにはいつの間にかヒイロイーン男爵令嬢の姿が。
「まさか、アークヤック様がそんなひどいことを」
「いや、あのきついお顔立ちならやりかねん」
ざわざわ、ざわざわ。
追い詰められたアークヤック嬢が、助けを求めるように振り向く。なぜかその目が真っ直ぐ俺に向けられた。
……は?
それに気づいた殿下やヒイロイーン嬢まで俺に注目する。当然、他の人たちも俺を見る。
……分かった、あいつだ。さっき、トイレに行ったやつ。ほんとはここであいつの出番だったんだ。
「えー……」
仕方ない。モブとして事前に予習した知識で場を繋ごう。
「あの、殿下、婚約破棄してヒイロイーン嬢に乗り換えるのは、悪手中の悪手っす」
「なに!?」
「殿下は国庫からちょろまかしたカネを全部、男爵家所有の鉱山に投資してるじゃないですか。あれ、男爵家にほとんど抜かれてますよ」
「えっ」
真っ青になるヒイロイーン嬢。
「あと、東の国境に間もなく敵国軍が殺到しますけど公爵家抜きの防衛戦は鬼ハードモードっす」
「なっ……!」
「あと、それから」
俺が情報を四つほど開陳したところで、さっきの青年貴族がハンカチで手を拭きつつ戻ってきた。
俺はすかさず彼の肩を抱く。
「と、彼が申しております」
「アーテウマー! 貴様、なぜそんな情報を!」
「見苦しいですぞ、観念なさい、殿下!」
青年が叫ぶ。
どういうことだ、これは一体。ざわざわざわ。モブに戻った俺は、みんなと一緒にざわざわするのだった。




