表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄壁越しの訳あり姉妹 ~彼女たちの部屋でGを退治したら、彼女たちに猛烈に愛され始めた件~  作者: 藍之介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/38

第28話 爽やかな笑顔と、笑っていない目

「えっ? ど、どういう意味ですか?」

「いいかい? 今の話、客観的に見て……少し、怪しい気がするんだ」


 星野さんは身を乗り出し、切実な表情で私に訴えかけました。


「モールで見かけた時、彼は……失礼だけど、冴えない感じの、君よりだいぶ年上の男性に見えた。そんな人が、君みたいな若い女性と、ましてや、高校生の妹さんに近づくなんて……普通じゃない」

「そ、そんなことありません! 佐藤さんは本当に優しくて……!」

「優しさなんて、いくらでも演技できるんだ」


 星野さんの鋭い口調に、私はビクリと肩を震わせました。


「葵ちゃん。君は前の職場で、上司の男に酷い目に遭わされたよね? 君は人が良すぎるから、悪い男に付け込まれやすい」

「そんな……」

「その、佐藤という男……。君の好意を利用して、君たちを『便利な女』として囲い込もうとしているんじゃないか?」


 既に星野さんの脳内では、完全に悪いストーリーが出来上がっているようでした。

 佐藤さんが、私と茜を家政婦扱いしている悪い男として……。


 確かに、何も知らない第三者から見れば、「独身の男性が、二人暮らしの姉妹に家のことをさせている」という構図は、怪しく見えるのかもしれません。

 でも、佐藤さんはそんな人じゃない。

 むしろ、私たちが押しかけているようなものですし……。


「否定したい気持ちはわかるよ。……けど、世の中は良い人たちばかりじゃないんだ。実際、ここの会員の方だって、本当の姿を取り繕って活動している方も一定数いる」

「いえ、佐藤さんはそういう方ではないんです……!」

「……僕は職場の先輩として、そして友人として……君が傷つくのを黙って見ていられないんだ」


 ダメです。もう私の話は聞こえていないようでした。

 星野さんは立ち上がり、ジャケットの襟を正します。

 その姿は、まさに悲劇のヒロインを救おうとする騎士ナイト


「葵ちゃん、決めたよ」

「な、何をですか……?」

「今夜。……君たちの家に行く」


 ――はい!?


 私は素っ頓狂な声を上げました。

 星野さんが? あのアパートに?


「その『佐藤』という男に会わせてもらおう。僕が直接会って、本当に君を任せられる男かどうか、一度見極めさせてもらうよ」

「ええええっ!? む、無理です! 困ります!」

「どうして? やましいことがないなら、会わせられるはずだよね?」

「それはそうですけど……! 部屋も散らかってますし、星野さんも仕事で疲れてますし……!」

「大丈夫。遠慮はいらないよ。それに、彼と少し話すだけさ」


 星野さんは爽やかな笑顔(でも目は笑っていない)で断言しました。


「もし彼が、君を利用しようとしているだけの男だったら……その時は、僕が全力で君を守るから」


 星野さんは私の肩に手を置き、ポンポンと優しく叩くと、「じゃあ、また後で」と言い残して颯爽とデスクに戻っていきました。

 残された私は、呆然とその後ろ姿を見送るしかありませんでした。


 (ど、どうしよう……!)


 大変なことになりました。

 星野さんは完全に、私と佐藤さんが付き合っていると勘違いしています。

 しかも、佐藤さん(悪い男)に騙されているとも……。

 そして、今夜、どんな男性かを査定しにやってくるというのです。


 星野さんに詰め寄られたら、佐藤さんはどうなってしまうのでしょう。

 それに、茜もいます。茜のことだから、星野さんを見たら「もしかして、お姉ちゃんの彼氏!?」なんて面白がって、さらに場を混乱させるに決まっています。


 私の頭の中に、今夜起こるであろう地獄絵図が鮮明に浮かび上がりました。

 ひだまり荘のちゃぶ台を囲んで、ギプス姿の佐藤さんと、スタイリッシュな星野さんが対峙する図。  

 なんだか胃が痛くなってきました。

 せっかくの幸せな月曜日の朝が、一瞬にして嵐の前の雰囲気に変わってしまいました。


 私は震える手でスマホを取り出し、佐藤さんにメッセージを送ろうとしました。

 でも、なんて送ればいいのでしょうか?

 『今日、職場の先輩が、あなたを悪徳詐欺師だと思って殴り込みに来ます』?

 そんなの送ったら、佐藤さんは帰ってこれなくなるかもしれません。


「……神様。これは私が浮かれていた罰なんでしょうか」


 私は天井を仰ぎ、深いため息をつきました。

 星野さんの誤解を解くには、実際に会ってもらって、佐藤さんの誠実さを知ってもらうしかありません。


 佐藤さんに会えば、きっとわかってくれるはず。

 あの優しくて、不器用で、温かい人柄なら。


 ……たぶん。おそらく。きっと。


 私は覚悟を決め、業務に戻りました。

 定時までの時間が、カウントダウンのように刻一刻と迫っています。

 今夜の「ひだまり荘」は、きっと大変なことになるでしょう。

 私は心の中で、佐藤さんに謝り続けました。


 ごめんなさい、佐藤さん。

 今日の夕飯、佐藤さんの好きなメニューにしますから……どうか、許してください……!

面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、ブックマークと評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
適当に、親戚の人とか言えばよかったのに
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ