日々、変わる音(蒼太視点)
パソコン部の活動が終わり、部室の空気が少しずつ静けさに戻っていく。
片づけを終え、扉を開けると――いつものように、白咲さんが立っていた。
待っている、というよりは“そこにいてくれる”感じ。
その光景にも少し慣れてきてしまっている自分に、戸惑いが生まれる。
「水守くん、今日も一緒に帰ろ?」
柔らかい声。期待がにじむような表情。
その全部が、僕にはもったいなさすぎる。
「……うん。いいよ」
返事はできる。でも、気持ちはうまく追いつかない。
校門に向かう途中、クラスのやつらがこっちを見てひそひそ話しているのが聞こえた。
「また一緒じゃね?」
「付き合ってるのか?」
その言葉が、重くのしかかる。
彼らの興味本位の声が、白咲さんに向いてしまうことが嫌だった。
“僕のせいで、変な噂が立ったらどうしよう”
そんな不安が胸を締めつける。
「……ごめん……。迷惑かけてない?」
気づけば口に出していた。
情けない声で。自分を下げる癖がまた出た。
「迷惑なんて思ってないよ」
迷いのない言葉が返ってきた。
でも、信じきれない。
だって僕は、特別な何かを持っているわけでもない。
駅まで歩く間、白咲さんは自然に隣を歩いてくれた。
歩幅が合っていることにも、僕より先に気づいているのかもしれない。
「今日の部活、水守くん集中してたね」
突然声をかけられて、びくっと肩が動いた。
「そ、そうかな……」
褒められると、どう応えればいいか分からない。
嬉しいはずなのに、胸がざわつく。
“そんなわけない”って心の中で否定し続けてしまう。
電車に乗ると、少し距離を空けて座ったはずなのに、意識はずっと白咲さんの存在を追っていた。
窓に映る彼女の横顔が、やけに優しく見える。
沈黙が続いた後、小さな声が隣から届いた。
「ねえ、水守くん……。もし迷惑だったら、言ってね。
私、誘いすぎてるのかなって」
その声は、不安を押し隠すような響きだった。
白咲さんが自分のせいで悩むなんて、想像もしてなかった。
「別に……嫌とかじゃないよ。
ただ……僕なんかでいいのかなって」
胸の奥から無意識に出た言葉。
でも、それが本音だった。
僕なんかが隣にいて、それを“嬉しい”なんて思っていいのか分からない。
勘違いしちゃいけない。
そう自分に言い聞かせてばかりいる。
白咲さんは、少しだけ悲しそうな目をして言った。
「“僕なんか”なんて……そんな言い方しないでほしいな……」
優しいのに、胸が痛くなる言葉だった。
車窓に流れる夕焼けが橙色にゆらぐ。
それに照らされる白咲さんの表情は、少し大人びて見えた。
その横顔を盗み見ながら、思う。
もし……
もし僕が、もっと自分を信じられるようになったら。
この隣を歩く資格が少しは生まれるんだろうか。
そんなことを考える自分に驚きつつも、
その願いだけは、そっと胸にしまった。




