目覚めとゲーム(灯視点)
気づいたとき、最初に感じたのは――あたたかさだった。
(……あれ?)
ふわっとした感覚の中で、ゆっくりと意識が浮かび上がる。
目を開けると、見慣れない天井と、静かなリビング。
(……あ)
次の瞬間、記憶が一気に戻ってきた。
(水守くんの……家……)
心臓が、どくんと大きく鳴る。
「……っ」
慌てて体を起こすと、すぐそばに水守くんがいた。
漫画を手に持っているけど、どこか落ち着かない様子。
「……ここ……水守くんの……?」
「う、うん……」
自分の状況を理解した瞬間、顔が一気に熱くなる。
(わ、私……寝てた……!?)
時計が視界に入って、さらに追い打ちをかけられる。
「……昼、過ぎてる……」
恥ずかしさで、頭が真っ白になる。
(初めて来た家で、寝るとか……最悪……)
「……ごめん……」
小さく謝ると、水守くんは慌てたように首を振った。
「い、いや……無理させたのは僕だし……」
その言い方が、優しくて。
少しだけ、救われた気がした。
結局、課題はほとんど進んでいなかったけど――
持ってきたお弁当を広げることになった。
ふたを開けた瞬間、水守くんの目が少しだけ見開く。
「……すごい」
「そんな……普通だよ」
でも、一口食べたあと。
「……おいしい」
その一言で、胸の奥がふっと軽くなった。
(よかった……)
眠くて、恥ずかしくて、最悪な気分だったはずなのに。
その言葉だけで、全部報われた気がした。
――そのとき。
「ただいまー」
玄関の音。
(え?)
現れたのは、水守くんの妹さんだった。
彼女は私を見るなり、目を丸くする。
「……え?」
「……こんにちは」
空気が、一瞬で変わる。
「お兄、友達って男じゃなかったの?」
(え、ええ……!?)
水守くんが慌てる横で、妹さんは完全に楽しそうだった。
「あー、なるほどねぇ」
からかうような視線が、水守くんに向く。
(……これは……)
そのあと、妹さんはお金を要求して、さっさと出ていってしまった。
ドアが閉まったあと、リビングに残る沈黙。
(……気まずい……)
「……ごめん」
水守くんがそう言ったから、私は首を振った。
「ううん……」
少し迷ってから、思っていたことを口にする。
「水守くん、親には……私が来たこと、知られたくないんだよね」
「……うん」
やっぱり、と思う。
だから、私は笑って言った。
「……私もね。水守くんが家に来たこと、親には内緒にしてるよ」
その瞬間、水守くんの表情が、少しだけやわらいだ。
(……同じなんだ)
その感覚が、嬉しかった。
でも、もう課題をする気分じゃなかった。
「テレビゲーム、あるんだけど……する?」
「したい」
考えるより先に、言葉が出た。
ゲームは初めてで、操作も全然わからない。
「えっと……これ?」
「そうそう」
水守くんが近くに来て、手を取って教えてくれる。
(……近い)
心臓がうるさい。
最初は全然勝てなかったけど、続けるうちに少しずつ慣れてきた。
(……次こそ……)
そして――画面に勝利の文字。
「……勝った……!」
思わず声が弾む。
「やった!」
本当に、嬉しかった。
「罰ゲームね」
気づいたら、そんな言葉が口から出ていた。
「……え?」
水守くんが戸惑った顔をした、その瞬間。
勢いで、頬に顔を寄せた。
――ちゅ。
(……っ)
触れた瞬間、我に返る。
(な、なにやって……!?)
顔が、一気に熱くなる。
自分でやったのに、恥ずかしくて、動けない。
水守くんは完全に固まっていた。
(……やっちゃった……)
でも。
後悔は、なかった。
心臓は壊れそうなくらい鳴っているのに――
胸の奥は、不思議とあたたかかった。
(……もう、戻れないね)
きっと、水守くんも同じことを思っている。
そう確信できたから。
私は、真っ赤な顔のまま、何も言えずにそこに立ち尽くしていた。




