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青に滲む光  作者:
52/54

緊張と安心(灯視点)

朝、目が覚めた瞬間から、心臓が落ち着かなかった。


 今日は――水守くんの家に行く日。


 昨日の夜、布団に入ってから何度も寝返りを打った。

 楽しみで、緊張で、色んな考えが頭を巡って、ほとんど眠れなかった気がする。


(……ちゃんと起きなきゃ)


 時計を見ると、予定より少し早い時間。

 でも、もう目は冴えていた。


 キッチンに立って、お弁当を作り始める。


 朝からお邪魔するし、きっとお昼も一緒になる。

 そう思ったら、何も持って行かないのは落ち着かなかった。


 卵焼き、ウインナー、簡単なおかず。

 凝ったものじゃないけど、「ちゃんと作った」という事実が、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。


(……喜んでくれるかな)


 そう考えて、ひとりで小さく苦笑した。


 桜川駅から歩く道。


 この先に、水守くんの家がある。

 場所を教えてもらったとき、正直すごく嬉しかった。


(……ほんとに、来ちゃった)


 インターホンを押す指が、少しだけ震えた。


 ドアが開いて、水守くんが立っている。


「おはよう、水守くん」


「お、おはよう……」


 少し緊張した顔。

 それを見るだけで、胸がきゅっとなる。


「これね。お昼いるかなって思って……お弁当」


「えっ……!」


 驚いた顔。

 その反応に、内心ほっとする。


「勝手に作ってきただけだから」


 そう言いながらも、実は少しだけ期待していた。


 家に上がると、静かだった。


 誰もいない、落ち着いた空気。

 “二人きり”という言葉が、頭の中でひっそり響く。


 案内された水守くんの部屋は、思っていた通りの感じだった。


 本棚に並ぶ漫画と参考書。

 机の上はちゃんと片付いていて――


(……水守くんだな)


 そう思って、自然と口元が緩む。


 でも、しばらくすると寒さがじわじわ伝わってきた。

「……寒くない?」

「うん、ちょっと」


「リビング行こうか。暖房あるし」

「うん」

 暖房の効いたリビングは、ほっとするくらい暖かかった。


 テーブルに並んで、課題を広げる。


 水守くんは真剣で、眉を寄せながら問題を追っている。

 その横顔を見ているだけで、来てよかったと思った。


(……でも)


 眠気が、じわじわと襲ってくる。


 昨夜ほとんど眠れていない。

 朝も早かった。

 文字を追っているうちに、だんだん視界がぼやけてくる。


(あれ……?)


 暖かさと、安心感と、寝不足。  全部が重なって、抗えなかった。


(ちょっとだけ……目、閉じよう……)


 そう思った記憶までは、ある。


 でも――次の瞬間には、意識が深いところへ落ちていた。


 誰かの気配。  近くで、戸惑ったような空気。


 うっすらと、暖かい静けさだけを感じながら、私は無意識のまま眠り続けていた。


 水守くんの家で。  水守くんの隣で。


 緊張も、不安も、全部ほどけた状態で。


(……安心する)


 それだけが、眠りの底に残っていた。

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