会うための理由(灯視点)
冬休みに入って、時間はたっぷりあるはずなのに。
私の一日は、思っていたよりずっと落ち着かなかった。
朝はいつも通りに起きて、課題に取りかかる。
計画を立てて、少しずつ進めていくのは嫌いじゃない。むしろ得意なほうだ。
でも――
「……」
ノートに向かっていても、集中が途切れるたびに、ふと考えてしまう。
水守くん、今何してるんだろう。
冬休み前までは、教室でも、帰り道でも、当たり前みたいに話していた。
それが、休みに入った途端、ぱたりと途切れてしまった。
会いに行こうと思えば行ける。
家の場所も、もう知ってる。
でも――理由もなく会いに行くのは、さすがに勇気がいる。
(……変に思われたら嫌だし)
告白して、断られて。
それでも今は、いい距離で話せていると思ってる。
だからこそ、その関係を壊したくなくて、踏み出せない。
スマホを手に取っては、置いて。
何度かそれを繰り返したあと、私は大きく息を吸った。
(……理由、作ればいいんだ)
目に入ったのは、机の端に積んである冬休みの課題。
一緒にやろうって言えば、不自然じゃない。
勉強なら、水守くんも断らないかもしれない。
そう思ったら、指が自然に動いていた。
『水守くん、冬休みの課題ってもう始めてる?』
送信してから、少しだけ後悔する。
忙しかったらどうしよう、とか。
迷惑だったらどうしよう、とか。
でも、返事はすぐに来た。
『いや……正直、あんまり』
思わず、くすっと笑ってしまう。
(らしいな)
胸の緊張が少しほどけて、そのまま続けて送った。
『よかったらさ、一緒にやらない?
一人だと集中できなくて』
送ったあと、スマホを握りしめたまま待つ。
少しして届いた返事。
『うん。ぜひ』
「……っ」
声を出さないように気をつけながら、思わず拳を握った。
よかった。
断られなかった。
次は、少しだけ勇気がいる。
(……言っちゃおう)
『じゃあ……水守くんの家でやりたいなって思ったんだけど……だめかな?』
これを送った瞬間、心臓が一気に早くなる。
家。
水守くんの、家。
自分でもわかる。
これは勉強だけが理由じゃない。
でも、正直に言えば――行ってみたかった。
返事が来るまでの時間が、やけに長く感じた。
『えっと……僕の家、そんなに広くないし……』
一瞬、胸がきゅっとなる。
(……やっぱり、嫌だったかな)
慌てて画面を見つめていると、すぐに次の通知。
『それでもいいの。
水守くんの家、ちょっと行ってみたくて』
送ってから、顔が熱くなるのを感じた。
……言い切っちゃった。
数秒後。
『……わかった。明日でいい?』
その文字を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
(……来た)
『うん! ありがとう!』
即座に返してから、ベッドに倒れ込む。
「……明日……」
水守くんの家に行く。
初めて、プライベートな場所に足を踏み入れる。
嬉しいのに、同じくらい緊張している。
どんな部屋なんだろう。
どんなふうに迎えてくれるんだろう。
失礼にならないかな。
変に思われないかな。
考え始めたらきりがない。
でも――
(会える)
それだけで、胸がじんわり温かくなった。
もらったクマのぬいぐるみが、視界の端に入る。
無意識にそれを抱き寄せて、深呼吸した。
「……落ち着こう」
明日は、ただの勉強会。
そう、自分に言い聞かせる。
だけど心の奥では、はっきり分かっていた。
理由をつけただけで、私はただ――
水守くんに、会いたかったんだって。




