会うための理由(蒼太視点)
冬休みに入って、学校は一気に静かになった。
朝、目覚ましをかけずに起きて、気の向くままに漫画を読んで、アニメを見て、昼過ぎまでだらだら過ごす。 少し前までなら、それだけで十分幸せだったはずなのに。
「……暇だな」
口に出してから、自分で少し驚いた。
やることはある。 冬休みの課題も残っているし、見たい作品も山ほどある。 なのに、胸のどこかが落ち着かない。
(白咲さん……今、何してるんだろ)
考えないようにしていたのに、気づけば思い浮かんでしまう。 毎日当たり前のように話していた時間が、急にぽっかり空いた感じだった。
スマホを見る。 特に通知はない。
(……理由もなく連絡するのも、変だよな)
会いたい、なんて。 そんなこと、友達同士で言うのは変だし――ましてや、告白を断った相手に。
そう自分に言い聞かせて、スマホを伏せた。
その数時間後。
画面が光った。
『水守くん、冬休みの課題ってもう始めてる?』
白咲さんからだった。
胸が、わずかに跳ねる。
『いや……正直、あんまり』 正直すぎる気もしたけど、嘘をつく理由もなかった。
すぐに返事が来る。
『よかったらさ、一緒にやらない? 一人だと集中できなくて』
一緒に。
その二文字を、何度も読み返した。
(……会える、ってことだよな)
迷う理由はなかった。
『うん。ぜひ』
送信すると、少し遅れて次のメッセージ。
『じゃあ……水守くんの家でやりたいなって思ったんだけど……だめかな?』
「……え?」
思わず声が出た。
家。 僕の、家。
正直に言えば、あまり乗り気じゃない。 散らかってるわけじゃないけど、人を招くほど整ってもいないし、何より――緊張する。
『えっと……僕の家、そんなに広くないし……』
そう送ると、間を置かずに返ってきた。
『それでもいいの。 水守くんの家、ちょっと行ってみたくて』
行ってみたい。
その言葉に、変なところがむずがゆくなる。
しばらく画面を見つめたまま、考える。
(……そんなに来たいなら)
『……わかった。明日でいい?』
送った瞬間、心臓が一段大きく鳴った。
『うん! ありがとう!』
その明るい返事に、なぜか少しだけ後悔する。
(……掃除、しなきゃ)
スマホを置くと同時に、僕は立ち上がった。
机の上を片付けて、本棚を整えて、床に落ちていた服を洗濯機に突っ込む。 普段なら気にも留めない場所まで、やたらと目についた。
「……来客って、こんなに大変なんだな」
汗をかきながら、苦笑する。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
白咲さんが、この部屋に来る。 そう思うと、落ち着かないけど――どこか楽しみでもあった。
(……明日か)
掃除を終えて、ベッドに腰を下ろす。
冬休みは、ただの“休み”だと思っていた。 でも今は、明日を指折り数えている自分がいる。
白咲さんと一緒に課題をやるだけ。 それだけのはずなのに。
「……落ち着け」
そう呟いても、胸の奥のそわそわは、なかなか収まらなかった。
きっと明日も、こんな調子なんだろう。
でも―― それも、悪くないと思えてしまう自分が、確かにいた。




