冬休みを前に(灯視点)
定期テストが全部終わった、その日の放課後。
答案が返ってきて、教室のあちこちで一喜一憂の声が上がっている中、私は自分の席で、そっと水守くんの様子を見ていた。
机に広げたテスト用紙を、何度も何度も見返している。 その表情は……少し驚いているようで、でも安心したみたいで。
(……あ、うまくいったんだ)
直感的にわかった。
特に数学。 あの問題集、あの時間。 一緒に解いたところだ。
しばらくして、水守くんが顔を上げた。 目が合うと、ほんの少し照れたように笑ってくれる。
「白咲さん……ありがとう。数学、ちゃんと解けた」
その一言で、胸の奥が一気に温かくなった。
「ほんと? よかった……!」
自分が役に立てたこと。 水守くんが「できた」って思えていること。
それだけで、全部報われた気がした。
テストが終われば、あとは冬休み。
パソコン部も、先輩たちが年末年始は忙しいから、冬休み中は活動なし。 放課後に集まる理由が、なくなってしまう。
帰り支度をする水守くんを見ながら、胸の奥に小さな寂しさが広がった。
(……毎日話してたのに)
意識しないようにしていたけど、やっぱり――会えなくなるのは、少しつらい。
だから、思い切って声をかけた。
「水守くん。冬休み……あんまり会えなくなるね」
自分でも、少し弱気な声だったと思う。
水守くんが驚いたようにこちらを見る。
「あ……そう、だね……」
その反応を見て、ちょっと安心した。 同じように感じてくれてるんだって。
それから、ずっと心に引っかかっていたことを口にした。
「……私、水守くんの家の場所、まだ知らないなって思って」
言った瞬間、心臓がどきっとする。
嫌がられたらどうしよう。 重いって思われたらどうしよう。
でも、水守くんは少し考えたあと、首を振った。
「嫌じゃないよ。……言う」
その言葉に、胸がふっと軽くなった。
「桜川駅から歩いて十分くらい。地図、送るね」
スマホに表示された地図を見て、私は思わず画面をじっと見つめてしまう。
(……ここなんだ)
水守くんが帰る場所。 水守くんの日常。
それを知れたことが、思っていた以上に嬉しかった。
「ありがと。これで……ちゃんとわかった」
そう言ったら、水守くんが少し不思議そうな顔をした。
「そんなに嬉しい?」
「……うん」
本当は、もっと言いたかった。
会おうと思えば、会いに行ける そう思えたことが、どれだけ心強いか。
でも、それはまだ胸の中にしまっておく。
「冬休みでも……会いたくなったら、いつでも連絡してね」
水守くんがそう言ってくれた瞬間、胸がきゅっとした。
「うん。する」
即答だった。
冬休みは、きっと少し寂しい。 でも、距離が離れる感じはしなかった。
だって今は―― 水守くんの居場所を、ちゃんと知っている。
(……大丈夫)
そう思えた自分に、私はそっと微笑んだ。




