冬休みを前に(蒼太視点)
定期テストが返ってきた日の放課後、僕は自分の答案を何度も見返していた。
(……ちゃんと、解けてる)
特に数学。
白咲さんに教えてもらった範囲は、驚くほどスムーズに点が取れていた。
応用問題も、自分でも信じられないくらい手ごたえがあった。
答案の点数以上に、「できた」という実感が胸を温かくさせる。
(……ほんとに助かったな)
自然と、白咲さんの顔が浮かんだ。
テストも終わり、もう冬休み目前だった。
パソコン部のほうでも、田島先輩と宮原先輩が年末年始で忙しくなるから、冬休みの部活動は完全に休みになった。
(のんびりできるのは……正直、嬉しい)
布団にくるまって漫画読んで、昼寝して、アニメ見て……そんな冬休みを想像すると、気持ちが少しだけ軽くなる。
でも同時に——
「水守くん」
帰り支度をしていた僕に、白咲さんが声をかけてきた。
「冬休み……あんまり会えなくなるね」
「え?」
その言葉にはっと顔を上げる。
白咲さんは少し寂しそうに苦笑していた。
「部活もないし、学校も休みだし……。最近毎日のように話してたから、なんだか変な感じ」
「あ……そう、だね……」
確かに、こうして毎日並んで帰ることが当たり前みたいになっていた。
急に会わなくなるのは……少しだけ胸が空っぽになるような、不思議な感覚だった。
「……あ、そうだ」
白咲さんが思い出したように顔を上げる。
「言おうと思ってたんだけど……私、水守くんの家の場所、教えてもらってないなって」
「え……あ」
そう言われて初めて気づく。
僕は白咲さんの家に行ったのに、僕の家の場所は何も伝えていなかった。
自分だけ知っているのは——確かに、不公平かもしれない。
「……言うの、嫌じゃなかったらでいいんだけど」
白咲さんの声は控えめだったけれど、その瞳はまっすぐだった。
考える必要はなかった。
「ううん。全然嫌じゃないよ。むしろ僕だけ知ってるのは変だし……言うよ」
「ほんと?」
「うん。桜川駅から歩いて十分くらいのところ。……地図、送るね」
スマホで位置を共有すると、白咲さんは画面をじっと見つめ、ふわっと笑った。
「ありがと。これで……水守くんのお家の場所、ちゃんとわかった」
「……そんなに嬉しい?」
「え、えっと……うん。なんか、知っておきたかったから」
そう言うと、白咲さんはほのかに頬を赤くして視線をそらした。
その反応に胸が少しだけざわつく。
「冬休みでも……会いたくなったら、いつでも連絡してね」
「う、うん。白咲さんも」
そう返した瞬間、少しだけ胸の奥が熱くなった。
これで——
白咲さんは、会おうと思えばいつでも僕に会いに来られる。
その事実に気づくと、不思議な安心感と、ほんの少しの緊張が同時に湧き上がる。
冬休みに入って、会う機会は確かに減る。
でも、距離が遠くなる感じはしなかった。
(……離れないんだな)
そんなふうに思えたのは、たぶん初めてだった。




