二人の距離(灯視点)
ショッピングモールへ行ってから……なんだか、毎日が前より少しだけ明るくなった気がする。
――理由は、たぶん考えるまでもなくて。
水守くんが、前よりたくさん話してくれるようになったからだ。
パソコン部の帰り道。 校舎を出てすぐのところで、並んで歩いていたとき。
「ねぇ、水守くんって……家では何してるの?」
思い切ってそう聞いたのは、ただ彼のことをもう少し知りたかったから。
返ってきた答えは――少し照れた、でも嬉しそうな声。
「アニメとか、漫画とか。わりと色々見るよ」
あ、こういう話もしてくれるんだ……って胸が温かくなる。
「へぇ、そうなんだ。どんなの?」
自然と身を乗り出してしまっていた。
水守くんは少しだけ考え込むように視線を落としながら、
「ジャンルは特に……気になったら何でも読む、かな。小説の原作も好きだし」
そう言う姿が、なんだか彼らしかった。
「そういうの、なんだか水守くんらしいね」
本当に、素直な気持ちで言っただけなのに……彼が一瞬だけ戸惑ったような顔をした。
――ああ、こういう反応、少し可愛いかもしれない。
「白咲さんは? 家では何してるの?」
それを聞かれた瞬間、胸が跳ねた。
前なら、きっとこんな質問してこなかったのに。
「えっと……料理とか、お菓子作ったりとか。最近はマフィンを練習してる」
そう答えると、水守くんは目を丸くして、ほんの少しだけ感心したように言った。
「すごい……」
その言い方があまりにも飾り気なくて、顔がふっと熱くなる。
「すごくはないよ。全然うまくいかない日もあるし……」
「でも、料理とかできるの、素直にすごいと思う」
……その言葉は、たぶん今日いちばん胸に沁みた。
「ありがと」
自然に笑えた。
こんなにもあたたかい気持ちになれるなんて、思ってなかった。
翌日、教室。
「水守くん、おはよう」
声をかけると、彼が少し照れたように目を合わせてくれる。
それだけで、朝から心が軽かった。
「昨日のマフィン……どうだった?」
「えっ、覚えててくれたの?」
嬉しすぎて、声が一瞬上ずりそうになった。
「うん、昨日のはうまくできたよ。ちゃんと膨らんで!」
「そっか、それは……よかった」
そんな風に言葉を返してくれるのが、ただただ幸せだった。
「味見する? 少しだけ持ってきてるよ」
「い、いいの? そんなの……」
「もちろん」
小さな包みを渡すと、彼の表情が柔らかくなった。
教室のざわめきの中で、ふたりだけの空間みたいで――胸がくすぐったい。
気づけば、ふたりの会話はもっと広がっていた。
趣味の話。 休日の話。 好きな授業の話。 小学生のころの笑える思い出。 逆に、ちょっとだけ苦手なこと。
色んな話題が出てくるたびに、
(あ、水守くんってこういう人なんだ)
と、知れるのが嬉しかった。
彼が言葉を探しながら話す姿も、 ふと視線をそらして照れる瞬間も、
全部、愛おしいと思ってしまう。
放課後、部室へ向かう途中。
「……なんか、最近よく話してるよね、僕たち」
水守くんがぽつりと言った。
その言葉があまりにも嬉しくて、胸がじんわりあたたかくなる。
「うん。私も、話せてすごく楽しいよ」
「……僕も」
小さな声なのに、はっきり届いた。
その言葉だけで、たぶん今日一日幸せでいられると思った。
(心を開いてくれたんだ……)
そんな実感が、そっと胸に広がる。
水守くんが笑うたび、話してくれるたびに、
――少しずつ、距離が近づいている。
そう思える日々が、ただただ嬉しかった。




