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青に滲む光  作者:
43/54

二人の距離(蒼太視点)

 ショッピングモールへ行ったあの日から、少しだけ世界が変わった気がした。


 ……いや、世界というより、僕の中の「人との距離感」が、かもしれない。


 気づけば、白咲さんと話す時間が前よりずっと長くなっていた。


 パソコン部の帰り道、校舎を出てすぐのところで、いつものように並んで歩いていたとき――


「ねぇ、水守くんって……家では何してるの?」


「え? ああ……その……アニメとか、漫画とか。わりと色々見るよ」


 なぜか少し恥ずかしくて、声が小さくなった。


 でも白咲さんは、嬉しそうに笑った。


「へぇ、そうなんだ。どんなの?」


「うーん……ジャンルは特に決めてなくて……気になったら何でも読む、かな。小説の原作とかも好きだし」


「そういうの、なんだか水守くんらしいね」


 “らしい”と言われるほど自分のことを語ったことなんて、誰に対してもなかった。


 胸の奥が、不思議と温かくなる。


「白咲さんは? 家では何してるの?」


 自然にそう聞けたのは、たぶん初めてだった。


 白咲さんは少し照れたように頬を触って、


「えっと……料理とか、お菓子作ったりとか。最近はマフィンを練習してる」


「お、すごい……」


「すごくはないよ。全然うまくいかない日もあるし……」


「でも、料理とかできるの、素直にすごいと思う」


「……っ」


 白咲さんの足取りが、ほんの一瞬だけ止まったように見えた。


 そのあと、ふわっと柔らかく笑う。


「ありがと」


 その笑顔があまりにも自然で、僕は言葉を返すタイミングを少し逃した。

 


 翌日の教室。


 今までなら、席に座って本を読んで静かに過ごすのが当たり前だった。


 でも――


「水守くん、おはよう」


 いつもの時間に白咲さんが声をかけてくれる。


 それだけで、教室の空気が少し明るくなったように感じた。


「おはよう。あの……昨日言ってたマフィン、どうだった?」


「えっ、覚えててくれたの? うん、昨日のはうまくできたよ。ちゃんと膨らんで!」


「そっか、それは……よかった」


「味見する? 少しだけ持ってきてるよ」


「い、いいの? そんなの……」


「もちろん」


 小さな包みをそっと渡されて、胸がくすぐったくなる。


 机の間を行き交うクラスメイトのざわめきが遠ざかって、二人だけの会話みたいな感覚になった。


 いつの間にか、趣味の話だけじゃなくて、休日の過ごし方とか、好きな科目とか、子どもの頃の思い出とか――


 本当に色んな話をするようになっていた。


 昔の僕なら考えられないほど、言葉が自然に出てきた。


 


 放課後、部室へ行く途中。


 ふと口が勝手に動く。


「……なんか、最近よく話してるよね、僕たち」


 言ってから気恥ずかしくなったけれど、白咲さんは嬉しそうに目を細めた。


「うん。私も、話せてすごく楽しいよ」


「……僕も」


 その言葉は、もう隠さなかった。


 白咲さんに話すと、胸が軽くなる。


 聞いてもらえるのが嬉しい。


 気づけば、教室で声をかけられるのを楽しみにしている自分がいる。

 


(……心、開いてるって……こういうことなのかな)


 まだうまく言語化できないけれど、白咲さんと話す時間が、確かに僕を変えつつある。


 僕達の距離は、確かに少しずつ――ちゃんと近づいていた。

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