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青に滲む光  作者:
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二人のお出かけ(蒼太視点)

 水曜の朝

 集合は十時なのに、八時半頃からずっと落ち着かなかった。


 家の中を無意味に歩き回ったり、髪を直したり、服を変えようか悩んだり……。

 こんなに緊張する予定、今までの人生のどこにもなかったと思う。


「……行くだけなんだ。普通に」


 そう言い聞かせても、心臓の音だけがやけに自己主張してくる。


 家を出て桜川駅に向かう。

 歩く足は、普段より少しだけ早かった。


 でも――駅前の時計を見たら、ほぼぴったり十時だった。

 むしろ時間通りに着けた自分を褒めたい。


 改札前を見ると、すでに白咲さんが立っていた。

 ……いや、立つというより、すごくそわそわしながらスマホを見たり周りを見たりしている。


 集合時間より早く来てるのは、たぶん間違いなく彼女だ。


「白咲さん」


 声をかけると、ぱっと顔をあげて、目を丸くした。


「み、水守くん……! おはよう!」


「うん。おはよう」


 今日の白咲さんは、いつもより少しだけオシャレをしていた。

 でも気合いを入れすぎた感じじゃなくて、自然で……なんというか、すごく似合っている。


 言葉にしようとしたけど、結局胸にしまった。


「じゃあ、行こうか」


「うん!」


 ふたりで改札を通り、いつもとは逆方向の電車に乗る。

 乗り換えもなくて、二十分くらいでショッピングモールに着いた。


 平日だからか、館内はびっくりするくらい空いていた。

 広くて、静かで、歩きやすい。


「どこから回ろっか?」


「えっと……あ、あそこ。雑貨屋さん。入ってみない?」


「いいよ」


 白咲さんが指差した店は、ハロウィンの飾りやオレンジ色の雑貨でいっぱいだった。


 店内に入ると、季節の匂いというか、雑貨屋特有の新しい匂いがした。


「かわいい……あ、このライト見て。カボチャの形してる」


「ほんとだ。よくできてるな」


 僕は雑貨屋ではあまり買う物がないけど、見ていて楽しかった。

 白咲さんは小さなハロウィン柄のポーチを手に取り、しばらく眺めて――


「買っちゃおうかな」


「似合うと思うよ」


「えっ……ふ、ふふ……ありがとう」


 なぜか少し照れていた。


 雑貨屋のあとは服やバッグの店を見て回った。

 ふたりで歩いているだけなのに、不思議と何を見ても楽しく感じた。


 気づけばもう十二時半を過ぎていて、


「そろそろお昼にしよっか?」


「うん。お腹すいたね」


 フードコートに向かおうとしたとき、ゲームセンターの前を通りかかった。


 無意識にそっちを見ていたらしい。


「水守くん、興味ある?」


「え? あ、いや……ちょっとだけ……」


 言いかけた瞬間、白咲さんが小さく笑った。


「ゆっくりお昼食べたら、あとで行こ?」


「……いいの?」


「もちろんだよ」


 胸の奥が跳ねた。

 たぶん、表情もわかりやすく明るくなってしまったと思う。


 フードコートでは、僕はラーメンを、白咲さんはパスタを選んだ。

 別々の店で買っても、一緒に座って食べるとそれだけで特別感があった。


 そして――午後。


 ゲームセンターに入ると、僕の中のスイッチが勝手に入った。


 クレーンゲーム。

 メダルゲーム。

 太鼓のリズムゲーム。


 気づいたら夢中になっていた。

 白咲さんはそんな僕を、少し驚いたように、でも嬉しそうに見ていた。


「水守くんって、こういうの得意なんだね」


「得意ってほどじゃ……ないけど……」


 クレーンゲームで、運よくクマのぬいぐるみが取れた。


「あ……これ……」


「すごい! 取れたんだ!」


「……よかったら、白咲さんに」


「えっ……いいの?」


 彼女の目が本気でキラキラしていた。


「うん。なんか……似合う気がして」


「……ありがとう。大事にするね」


 その反応を見ていると、取れた瞬間よりも胸が温かくなった。


 夕方。

 日が落ちはじめた頃、桜川駅に戻ってきた。


「今日はすっごく楽しかったよ」


「僕も。……ほんとに」


 白咲さんは、買い物袋をゆらしながら笑った。


「また行けたらいいな」


「あ……うん。ぜひ」


 言った瞬間、胸にふわっとしたものが広がった。


「じゃ、またね。水守くん」


「また明日」


 白咲さんの後ろ姿が階段へ消えていき、僕はしばらくその場で呼吸を整えた。


 ――家に帰ると、部屋の空気がいつもより静かに感じた。


 ベッドに腰を下ろし、今日のことを何度も思い返す。


 雑貨屋での笑顔。

 フードコートでの何気ない会話。

 ゲームセンターでのはしゃいだ瞬間。

 クマのぬいぐるみを渡したときの、あの喜ぶ顔。


「……楽しかったな」


 自然と声が漏れた。

 誰かと出かけて、こんな気持ちになるなんて、想像もしていなかった。


 胸の奥がまだあたたかい。


 また白咲さんとどこかへ行けたら――

 そんな願望がふと湧いたのは、たぶん初めてのことだった。

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