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青に滲む光  作者:
38/54

変化する気持ち(灯視点)

 水守くんに告白してから、もうすぐ二週間が経つ。


 最初の一週間は、思い出すだけで胸が痛くなるほど気まずかった。  けれど、それでも私は“変わらない”ことを選んだ。


 いつも通りに隣にいて、いつも通りに笑って、

 そして――無理じゃない限り、ちゃんと褒める。


 だって、水守くんは自分を低く見すぎるから。


 誰よりも周りを見て動けるのに。

 困っている人に気づけるのに。

 みんなが自然に頼ってしまうくらい、さりげなく支えてくれるのに。


 それでも本人は、ほんの少し褒めただけで慌てたように否定してしまう。


 その度に、胸がきゅっと苦しくなる。


 ――そんなふうにしなくていいのに。


 そう思いながらも、焦らずゆっくりと。

 水守くんが自分で自分を否定しないようになるまで、寄り添っていくつもりだった。


 でも、ここ数日。


 その変化は、急に訪れた。


 放課後、部室へ向かう廊下。


 隣を歩く水守くんの横顔が、少し柔らかく見えた。


「そういえば水守くん、この前のコード整理してくれたでしょ? あれ、助かったよ」


 言った直後、水守くんの肩が小さく揺れた。


 ――いつもみたいに否定するかな。


 そう思っていたのに。


「……ありがと」


 その言葉が返ってきた瞬間、足が止まりそうになった。


 “ありがとう”

 その一言が、こんなにも温かくて、嬉しくて。


 胸の奥にそっと触れられたように、静かに震えた。


「うん」


 自然と笑みがこぼれる。


 水守くんが素直に受け取ってくれたことが、ただそれだけで報われた気がした。


 部室に入り、いつものようにパソコンを立ち上げながら横目で水守くんを見る。


 資料を直して、必要なものをすぐ取れるように置き直して――

 その一つひとつの動きが、丁寧で無駄がなくて、やっぱり好きだと思った。


「水守くんって、気づくの早いよね」


 近づいて声をかけると、水守くんは目を丸くした。


「“これしといた方がいいかな”ってところ。

 いつも自然に動いてくれるから、部室の空気がすごく助けられてるんだよ」


 言いながら、少しだけ不安になる。

 また否定されちゃうかな、って。


 でも――


「……どういたしまして」


 たった四文字なのに、胸がぎゅっと掴まれた。


「えへへ、なんか今日の水守くん、いいね」


 素直になってくれた。

 私の言葉をちゃんと受け取ってくれたんだ。


 その事実が、息をするより自然に嬉しかった。


 帰り道。

 夕焼けから夜へ移る空の色を眺めながら歩く。


「今日の作業、早かったね。水守くんが先に流れ作ってくれたからだよ」


「いや、それは……」


 あ、また否定しちゃうかな――と思った瞬間。


 水守くんはそこで言葉を止めて、少しだけ考えるように視線を落として。


「……よかった」


 その答えに、胸が熱くなった。


「うん、よかったよ。ほんとに」


 気づくと笑っていて、そしてその笑顔が自然にこぼれているのが分かった。


 褒め言葉を“拒否されない”って、こんなに嬉しいものなんだ。


 桜川駅の改札前。


「じゃあ、また明日ね。水守くん」


「うん。……また明日」


 その声色が前より柔らかい。


 別れたあと、階段を下りながら、私は胸に手を当てた。


 水守くんは今、少しずつ変わろうとしている。


 私の言葉を信じてくれようとしている。

 “褒められる自分”を受け入れようとしている。


 その変化が、たまらなく嬉しい。


 でも同時に――ほんの少し、切なくもあった。


 きっと私は、また水守くんを好きになってしまっている。


 告白が終わったからって気持ちが消えるわけじゃない。

 むしろ、前よりもっと強くなってる気さえする。


 それでもいい。


 焦らなくていい。


 “ありがとう”を言ってくれるようになった水守くんが、私にとって何よりの答えだった。


 明日も、また褒めると思う。


 そしてきっと――

 水守くんは、また少しだけ前を向く。


 その度に私は、そっと背中を押すんだ。


 変わり始めた彼の隣に、まだ立っていたいから。

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