進み出す関係(灯視点)
水守くんに告白して、断られてから一週間。
少しだけ胸が痛む日が続いたけれど、 それでも、私はこれまで通りに過ごすと決めていた。
だって、水守くんを困らせたいわけじゃないし。 嫌われたくて告白したんじゃない。
距離が変わることだけは、どうしても嫌だった。
だから私は、いつも通りに笑って、いつも通りに隣にいる。 それが今の私にできる精一杯だった。
この一週間、水守くんを見ていると、ずっと胸がざわつく。
――相変わらず、自分を低く見すぎだよ。
人より先に動けるし、気配りもできるし、部活でも一番周りを見ている。 なのに、ちょっと褒めただけで「そんなことないよ」って引っ込んでしまう。
あのとき。 告白を断られたあとの、泣きそうな笑顔を隠そうとしていた私に “不釣り合いだ” なんて言った、その言葉。
あれは、私を傷つけた言葉じゃなくて――
水守くん自身が自分を傷つけてる言葉だって、すぐに分かった。
だから、決めた。
私は、水守くんが自分のことをもっと大事にできるように、少しずつ支えたい。
放課後、部室へ向かう廊下。
「そういえば水守くん、文化祭の写真まとめてくれてたよね。すごく見やすかったよ」
何気なく言ったつもりだったのに、水守くんの歩幅が少しだけ変わった。
――あ、やっぱり照れてる。
「適当にやっただけだよ」
「ううん、ああいうのってほんと助かるんだよ?」
私が言うと、水守くんは耳の先を赤くした。
そんな反応を見るたびに胸が温かくなる。
褒めてるのはわざとじゃなくて、ただ気づいたら言いたくなるから。
嘘なんてひとつもない。
部室に着いて、いつもの席で準備をしていたとき。
「水守くんって、片付け上手だよね」
今度は本当に些細なことだったけれど、思わず口にしていた。
だって、水守くんの手はいつも丁寧で、迷いがなくて。
“自分の役割”を自然に見つけて動ける人なんだもん。
「その“ただ”がちゃんとできるのがすごいの。私、そういうところ好きだな」
言った瞬間、自分の心臓が跳ねた。
告白して断られたのに、“好き”なんて言って大丈夫だったかな……って不安がよぎったけど、水守くんは気づいてない顔をしていた。
ホッとしたような、少し残念なような、不思議な気持ち。
帰り道、青葉台駅へ向かう歩道。
「なんでそんな褒めるの?」
水守くんが少し困ったように立ち止まった。
その表情が、なんだか愛しくて、私は息を吸い込んだ。
「言いたいんだよ」
気持ちをごまかしたくなかった。
「水守くんができてること、ちゃんと伝えたいの。 だって……気づかないと、すぐ自分を低く見ちゃうでしょ?」
少し言いすぎたかもしれない。
でも、目をそらした水守くんを見て、図星なんだって分かった。
「気になったら言っちゃうの。自然とね」
本当は、“好きだから”って付け加えたかった。
でも、それだけはまだ言わない。
告白を断られても、私はまだ水守くんが好きだ。
これは変えられないし、変わりようがない。
だけど今の関係が壊れるのは怖い。
だから私は、焦らずに、ゆっくりと。
水守くんが自分を好きになれるように。
そしていつか、誰かの隣に胸を張って立てるように。
その“誰か”が私でなくても――そう思おうとしたのに。
やっぱり、その未来に自分がいたいと願ってしまう。
桜川駅の改札で別れたあと、少しだけ後ろ姿を見送った。
褒められるの、苦手なんだろうな。
でも、今日の最後。
「……ありがとう」
あの小さな声は、ちゃんと届いた。
水守くんは変わり始めている。
少しだけ前を向こうとしている。
その変化が、嬉しくて。
胸の奥がじんわり温かくなった。
――これでいい。焦らなくていい。
私は、いつだって水守くんの味方でいたい。
その気持ちさえあれば、今日の痛みも、昨日の涙も、全部耐えられる。




