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青に滲む光  作者:
36/54

進み出す関係(灯視点)

 水守くんに告白して、断られてから一週間。


 少しだけ胸が痛む日が続いたけれど、  それでも、私はこれまで通りに過ごすと決めていた。


 だって、水守くんを困らせたいわけじゃないし。  嫌われたくて告白したんじゃない。


 距離が変わることだけは、どうしても嫌だった。


 だから私は、いつも通りに笑って、いつも通りに隣にいる。  それが今の私にできる精一杯だった。


 この一週間、水守くんを見ていると、ずっと胸がざわつく。


 ――相変わらず、自分を低く見すぎだよ。


 人より先に動けるし、気配りもできるし、部活でも一番周りを見ている。  なのに、ちょっと褒めただけで「そんなことないよ」って引っ込んでしまう。


 あのとき。  告白を断られたあとの、泣きそうな笑顔を隠そうとしていた私に “不釣り合いだ” なんて言った、その言葉。


 あれは、私を傷つけた言葉じゃなくて――

 水守くん自身が自分を傷つけてる言葉だって、すぐに分かった。


 だから、決めた。


 私は、水守くんが自分のことをもっと大事にできるように、少しずつ支えたい。


 放課後、部室へ向かう廊下。


「そういえば水守くん、文化祭の写真まとめてくれてたよね。すごく見やすかったよ」


 何気なく言ったつもりだったのに、水守くんの歩幅が少しだけ変わった。


 ――あ、やっぱり照れてる。


「適当にやっただけだよ」

「ううん、ああいうのってほんと助かるんだよ?」


 私が言うと、水守くんは耳の先を赤くした。


 そんな反応を見るたびに胸が温かくなる。


 褒めてるのはわざとじゃなくて、ただ気づいたら言いたくなるから。

 嘘なんてひとつもない。


 部室に着いて、いつもの席で準備をしていたとき。


「水守くんって、片付け上手だよね」


 今度は本当に些細なことだったけれど、思わず口にしていた。


 だって、水守くんの手はいつも丁寧で、迷いがなくて。

 “自分の役割”を自然に見つけて動ける人なんだもん。


「その“ただ”がちゃんとできるのがすごいの。私、そういうところ好きだな」


 言った瞬間、自分の心臓が跳ねた。


 告白して断られたのに、“好き”なんて言って大丈夫だったかな……って不安がよぎったけど、水守くんは気づいてない顔をしていた。


 ホッとしたような、少し残念なような、不思議な気持ち。


 帰り道、青葉台駅へ向かう歩道。


「なんでそんな褒めるの?」

 水守くんが少し困ったように立ち止まった。


 その表情が、なんだか愛しくて、私は息を吸い込んだ。


「言いたいんだよ」


 気持ちをごまかしたくなかった。


「水守くんができてること、ちゃんと伝えたいの。  だって……気づかないと、すぐ自分を低く見ちゃうでしょ?」


 少し言いすぎたかもしれない。

 でも、目をそらした水守くんを見て、図星なんだって分かった。


「気になったら言っちゃうの。自然とね」


 本当は、“好きだから”って付け加えたかった。

 でも、それだけはまだ言わない。


 告白を断られても、私はまだ水守くんが好きだ。

 これは変えられないし、変わりようがない。


 だけど今の関係が壊れるのは怖い。


 だから私は、焦らずに、ゆっくりと。


 水守くんが自分を好きになれるように。

 そしていつか、誰かの隣に胸を張って立てるように。


 その“誰か”が私でなくても――そう思おうとしたのに。


 やっぱり、その未来に自分がいたいと願ってしまう。


 桜川駅の改札で別れたあと、少しだけ後ろ姿を見送った。


 褒められるの、苦手なんだろうな。

 でも、今日の最後。


「……ありがとう」


 あの小さな声は、ちゃんと届いた。


 水守くんは変わり始めている。

 少しだけ前を向こうとしている。


 その変化が、嬉しくて。

 胸の奥がじんわり温かくなった。


 ――これでいい。焦らなくていい。


 私は、いつだって水守くんの味方でいたい。


 その気持ちさえあれば、今日の痛みも、昨日の涙も、全部耐えられる。

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