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青に滲む光  作者:
35/54

進み出す関係(蒼太視点)

 白咲さんに告白されて、断ってから、一週間が経った。


 日常は、見た目だけなら何も変わっていない。  教室でも部室でも、僕らは以前と同じように話し、同じように隣を歩く。


 でも――

 僕の中だけは、ずっとぎこちないままだ。


 そして最近、もうひとつ気になることがある。


 白咲さんが、やけに僕を褒めてくる。



 放課後、パソコン部の部室へ向かう廊下を歩いていたときだった。


「そういえば水守くん、文化祭の写真まとめてくれてたよね。すごく見やすかったよ」


「あ、いや……適当にやっただけだよ」


「ううん、ああいうのってほんと助かるんだよ?」


 その声は本当に自然で、無理なんて微塵も感じられなかった。


 なのに僕の方が、言葉を受け止めきれずに歩幅が少し乱れた。


(……また褒めてくれてる)


 気まずいわけじゃない。

 だけど、胸の奥がくすぐったくて、落ち着かない。


 それがどうしてなのか、自分でもよくわからない。



 部室に着き、いつもの席でパソコンを起動しながらケーブルを束ねていると、


「水守くんって、片付け上手だよね」


「え、片付け? ただ束ねてるだけだよ?」


「その“ただ”がちゃんとできるのがすごいの。私、そういうところ好きだな」


 好き、だなんて。


 一瞬、心臓が跳ねた。


 でも白咲さんは、別に特別な意味なんてないように笑っている。


 ――もしかして僕の勘違いだろうか。


 そう思って、自分の胸の騒ぎを押し込めた。



 帰り道。

 青葉台駅へ向かう歩道を二人で歩いていたときだった。


「今日のプログラム、動いたね。水守くんの調整のおかげだよ」


「いや、コード書いてたのは宮原先輩だし」


「それでも、直してくれる人がいなきゃ動かないよ? 水守くんって、ほんと気づくの早いんだね」


 ……まただ。


 褒められすぎている気がする。


 だけど白咲さんの目は、本当にまっすぐで、嘘がない。


 だからこそ、疑問が口をついて出た。


「……なんでそんな褒めるの?」


 白咲さんが足を緩め、僕を見上げた。


「え? 褒めすぎだった?」


「いや、そういうわけじゃないけど……なんで僕なんか……その、わざわざ言わなくても」


「言いたいんだよ」


 迷いのない声だった。


「水守くんができてること、ちゃんと伝えたいの。

 だって……気づかないと、すぐ自分を低く見ちゃうでしょ?」


「……っ」


 胸の奥で、何かが刺さった。


 白咲さんには、僕のそういうところが見えていたのか。


 いや、見抜かれていたのか。


「気になったら言っちゃうの。自然とね」


 夕方の光の中で、白咲さんは柔らかく笑った。


 その笑顔に、嘘も作り物も一つもなかった。


 ――自分を低く見てしまう癖。


 それは認めたくないのに、薄々自覚しているものだった。


 白咲さんの言葉が、その奥に触れてくる。


 胸のざわつきが、今日は痛みよりも温かさのほうが少し大きい。


「……ありがとう」


 ようやく、絞り出すように言ったその一言を、


「うん」


 白咲さんは、嬉しそうに受け取ってくれた。



 桜川駅で別れたあと、家へ向かいながら思う。


 白咲さんに褒められても、素直に受け取れない。

 だけど――少しだけ嬉しい。


 そしてその嬉しさが、僕自身の中で何かを変え始めている。


(……僕は、変わってきているのかもしれない)


 胸の奥に灯りがともるように、

 白咲さんの言葉が、じんわり残っていた。


 自分を肯定するのが苦手な僕でも、

 ――白咲さんの言葉だけは、不思議と心に入ってくる。


 そのことに気づいた一日だった。

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