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青に滲む光  作者:
33/54

変化の兆し(蒼太視点)

文化祭の翌日。学校は、一晩で熱気を全部置き忘れてきたみたいに静かだった。

 だけど、僕の胸の中だけは、昨日のままざわついていた。


 ――白咲さんに、告白された。

 そして、僕は断った。


 その事実が頭から離れない。


 ホームルーム前の教室で、いつも通り席に着こうとしたときだった。


「おはよう、水守くん」


 振り返ると、白咲さんがいつも通りの、穏やかな笑顔で立っていた。


「あ……おはよう」


 声がほんの少し上ずったのが、自分でも分かった。


 本当は気まずいはずなのに――白咲さんは、まるで何もなかったみたいに普通にしている。

 その自然さが、逆に胸の奥を締めつけた。


 無理してるんじゃないか。

 本当は昨日のことで辛いんじゃないか。

 でも、彼女はそれを見せない。


 その強さが、少しだけ怖かった。


 授業のあいだ中、意識のどこかがずっと落ち着かなかった。

 何度も何度も、昨日の白咲さんの表情がフラッシュバックする。

 真剣な目。震えた声。

 そして、最後に見せた、あの無理な笑顔。


 ――あれを思い出すたびに、胸が痛む。



 放課後、パソコン部の部室へ向かう廊下。

 昨日なら隣に並ぶのが自然だったのに、今日は少し距離を測るように歩いてしまう。


「あ、待って。水守くんも部室?」


 白咲さんが小走りに追いついてきた。

 本当に、いつも通りの声だった。


「う、うん。行くよ」


「じゃあ一緒に行こ。今日、宮原先輩が文化祭を頑張ったご褒美持ってくるって言ってたし」


「ああ……そうなんだ」


 気まずいのは、きっと僕だけだ。

 彼女は何事もなかったみたいに振る舞っている。


 それがありがたくて、苦しくて、どうしていいのか分からなかった。


 部活が終わり、帰り道。

 結局、いつも通りの流れで、二人で青葉台駅へ向かうことになった。


 駅へ向かう歩道。

 風が吹くたび、白咲さんの髪が揺れる。


「文化祭、終わっちゃったね。なんか、あっという間だったなぁ」


「……そうだね」


「でも、パソコン部の展示、すごく評判よかったよ。水守くん、ずっと頑張ってたし」


「そ、そんなことないよ」


 だけど、胸の奥が少し熱くなった。

 昨日より、彼女を意識してしまっている自分に、気づく。


 ――白咲さんは、強い人だ。

 断られたのに、変わらずに笑って、変わらずに僕と話してくれる。


 その姿を見ていると、胸の奥のざわめきが、昨日と違う意味を持ち始めている気がした。


 でもそれが“何の感情なのか”は、まだうまく言葉にできない。

 できないけれど――ほんのわずかに、白咲さんのことが、昨日よりも気になっている。


 そんな自分に、気づいてしまう。


 桜川駅の改札を出る。

 昨日とまったく同じ場所なのに、景色の色が違って見えた。


「じゃあ、水守くん。また明日ね」


「……うん。また明日」


 白咲さんは、昨日と同じ笑顔で手を振った。


 でもその笑顔の奥に、隠れた痛みがまだ残っていることを、僕はもう見逃せなかった。


 そして――

 その痛みに気づいて胸が苦しくなる、自分自身にも。


 改札前でしばらく立ち止まりながら、僕は息を吐いた。


 距離は“今まで通り”のまま。

 だけど心の距離は、ほんの少しだけ、昨日とは違う。


 その変化が、いいものなのか、悪いものなのか。

 まだ僕にはわからなかった。

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