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青に滲む光  作者:
32/54

文化祭を終えて(灯視点)

 文化祭の熱気が冷めないまま、それでも夕方の校舎は静かになっていった。

 垂れ幕を外し、パネルを片づけ、机を並べ直す。

 クラスの片づけが終わったころには、窓の外の空はすっかり暮れていた。


「白咲、こっちはもう大丈夫だよ。部活のほう行ってきていいよ」


 クラスメイトに背中を押されるようにして、私は教室を出た。


 廊下の先には、同じく呼ばれた蒼太くんが田島先輩と話している。


「よし、水守。パソコン部のほう手伝ってくれるか?」


 その声を聞きながら、私は蒼太くんの隣に並ぶ。

 彼が先輩に頷くのを見て、胸の奥が少し温かくなった。


 部室に行くと、宮原先輩が段ボールをまとめているところだった。


「水守くん、手伝いに来てくれたんだ。助かるよ」


 優しい声とともにほっとするような笑顔が向けられる。


「白咲さんも、お疲れさま。そっちは大変だったでしょ?」


「あ……いえ、そんな……ありがとうございます」


 少しだけ照れながら答えると、視界の端で蒼太くんが同じように作業に入っていく。


 二人で並んでパネルを解体し、梱包して、棚に戻す。

 文化祭の名残りが少しずつ消えていく。


 最後の段ボールを積み終えたとき、田島先輩が手を叩いた。


「よし! 終わったな。じゃあこのあと、打ち上げ行くぞ。パソコン部全員で」


 その声に、胸がどきっと跳ねる。

 今日、話すつもりじゃなかったのに――でも、蒼太くんと過ごせる時間が増えるのはやっぱり嬉しかった。


「水守くん、予定大丈夫?」

宮原先輩の柔らかい声が響く。


「あ……クラスのもあるんですけど、僕は……こっち行きます」


 その言葉を聞いた瞬間、心が軽くなるのを感じた。


「じゃあ、私も……パソコン部の打ち上げに行きます」


 気づいたら、自然と言葉が出ていた。


「白咲さん、無理してない?」

宮原先輩が心配そうに聞く。


「いえ、行きたいので」


 ほんの一瞬だけ、蒼太くんのほうを見た。

 その視線に気づかれたかは分からない。


 ファミレスでの打ち上げは、とても楽しかった。

 田島先輩がテンション高く騒いで、宮原先輩が優しく笑って止めて、

 蒼太くんと私は横でそれを聞きながら笑っていた。


 蒼太くんと同じテーブルで、同じものを食べて、同じことで笑って――

 それが、胸が苦しくなるくらい嬉しかった。


 でも、時間はすぐに終わってしまう。


「じゃ、俺たちは自転車で帰るから」


「二人とも、気をつけてね」


 宮原先輩と田島先輩が自転車置き場へ向かっていき、私たちは二人きりになる。


 夜風が頬を撫でていく。

 昼の熱気が全部消えてしまったみたいだった。


「帰ろうか」


 蒼太くんのその声に、胸の奥がぎゅっと締まった。


「うん」


 隣を歩く。

 街灯の下でできる二人の影が、少しだけ近い。

 文化祭の喧騒がまだ耳に残っているのに、私たちの周りだけ静かだった。


 電車に揺られて、桜川駅へ着く。

 改札を出ると、帰り道に分かれるいつもの場所。


 ……でも、今日は違う。


「……蒼太くん」


 思わず、彼の背中に手を伸ばしそうになる。

 それをぐっとこらえて、声だけで引き留めた。


 振り向いた蒼太くんの表情は、優しくて、少し驚いていて――

 その顔を見た瞬間、胸の奥の決意が揺るがなくなった。


「その……話したいことがあるの」


 大きく息を吸う。

 心臓が壊れそうなほど速く鼓動している。


「私……蒼太くんのことが好き。ずっと、ずっと前から」


 言った瞬間、世界が凍ったように静かになった。


 でも蒼太くんは――


「……ごめん」


 静かに、でもはっきりとそう言った。


「え……なんで?」


 わかってた。

 うすうす、気づいてた。

 でも、言わずにはいられなかった。


「僕なんか……白咲さんに釣り合わないよ。勉強も運動も、人付き合いも……全部、白咲さんのほうがずっと上で。僕には……」


「そんなの関係ないよ」


 本当はもっと強く言いたかった。


「私が、蒼太くんを好きなんだよ。理由なんて――」


「でも、ダメなんだ」


 その言葉が胸に突き刺さる。


「白咲さんがそう言ってくれても、僕は……受け取れない」


「……どうしても?」


 涙をこらえながら聞くと、蒼太くんは痛そうな顔をして――


「……ごめん」


 その一言で、全部わかってしまった。


 俯いて、深呼吸をして、顔を上げる。

 笑わなきゃいけない、と思った。


「……そっか。わかった」


 本当は笑えなかった。

 でも、笑わなきゃいけなかった。


「今日はありがとう。おやすみ、蒼太くん」


 頭を下げて、家の方向へ歩き出す。


 背中を向けた瞬間、涙がこぼれそうになった。

 でも――振り向かないと決めた。


 さよならじゃない。

 でも、今はこれ以上言えなかった。

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