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青に滲む光  作者:
31/54

文化祭を終えて(蒼太視点)

文化祭の熱気が嘘みたいに、夕方の校舎は静まり返っていた。垂れ幕を外し、パネルを片づけ、教室の机を並べ直す。クラスの片づけを終えるころには、もうすっかり日が傾いていた。


「よし、水守。パソコン部のほう手伝ってくれるか?」

田島先輩が声をかけてくれて、僕は頷いた。


「はい、行きます」


 白咲さんも「クラスはもういいよ」と背中を押されるようにして、一緒に部室へ向かった。


 部室では、段ボールや展示用のケーブルを宮原先輩がまとめていた。


「水守くん、手伝いに来てくれたんだ。助かるよ」

宮原先輩は、どこかほっとしたように微笑んだ。


「白咲さんも、お疲れさま。そっちは大変だったでしょ?」


「いえ、そんな……ありがとうございます」


 白咲さんが少し照れたように返す。

 僕ら一年は言われたとおりにパネルを解体して、梱包し、棚に戻していく。最後の段ボールを積み終えたころ、田島先輩がポン、と手を叩いた。


「よし! 終わったな。じゃあこのあと、打ち上げ行くぞ。パソコン部全員で」


「えっ、今からですか?」

僕が聞き返すと、先輩はニッと笑った。


「当たり前だろ。文化祭が終わったんだぞ? 騒ぐしかないだろ」


「水守くん、予定大丈夫?」

宮原先輩が柔らかく調子を合わせてくれる。


「あ……クラスのもあるんですけど、僕は……こっち行きます」


 正直、クラスの打ち上げは苦手だった。盛り上がる空気についていける気がしない。

 そう言うと、すぐそばで白咲さんが目を上げた。


「じゃあ、私も……パソコン部の打ち上げに行きます」


「お、白咲も来るか。いいじゃん」

田島先輩は気にした様子もなく笑った。


「白咲さん、無理してない?」

宮原先輩は優しく気遣ってくれた。


「いえ、行きたいので」


 その言い方が、どこか僕のほうをちらりと見たような気がして、胸が少しだけざわついた。


 ファミレスでの打ち上げは、思っていたよりずっと楽しかった。田島先輩のテンションがやたら高く、宮原先輩がそれを笑いながら制止して、僕と白咲さんはそれを横で聞きながら笑っていた。


 だけど、楽しい時間はすぐに終わる。


「じゃ、俺たちは自転車で帰るから」

田島先輩が手を振る。


「二人とも、気をつけてね」

宮原先輩も柔らかく言い、僕たちに手を振って自転車置き場へ向かっていった。


 残されたのは僕と白咲さんだけ。

 夜風が、昼間の熱気をすっかり奪っていた。


「帰ろうか」

自然とそう言っていた。


「うん」


 ゆっくりと学校前の坂を下り、街灯の下を歩く。文化祭の喧騒がまだ耳に残っているのに、僕らの周りだけ静けさがあった。


 電車に揺られて桜川駅に着き、改札を出る。

 いつもなら「じゃあ、また明日」で終わる場所。


 でも、今日は違った。


「……蒼太くん」


 背中を引き留めるように、白咲さんが呼んだ。


 振り向くと、彼女の表情は真剣だった。

 鼓動が一瞬で強くなる。


「どうしたの?」


「その……話したいことがあるの」


 白咲さんは深く息を吸い、そして――


「私……蒼太くんのことが好き。ずっと、ずっと前から」


 言葉が夜の空気の中に溶けていく。

 僕は一瞬で固まった。


 ――白咲さんが? 僕を?


「……ごめん」


 そう言うのが精一杯だった。


「え……なんで?」


「僕なんか……白咲さんに釣り合わないよ。勉強も運動も、人付き合いも……全部、白咲さんのほうがずっと上で。僕には……」


「そんなの関係ないよ」

白咲さんは食い下がるように言った。

 声が震えている。


「私が、蒼太くんを好きなんだよ。理由なんて――」


「でも、ダメなんだ」


 喉が痛いほど苦しかった。


「白咲さんがそう言ってくれても、僕は……受け取れない」


「……どうしても?」


 涙をこらえているような声だった。


「……ごめん」


 白咲さんはしばらく俯いて、そしてゆっくり顔を上げた。


「……そっか。わかった」


 無理に笑おうとしているのが分かった。

 その笑顔が、胸に刺さった。


「今日はありがとう。おやすみ、蒼太くん」


 白咲さんは小さく頭を下げると、家の方向へ歩き出した。


 僕はただ、その背中を見送るしかなかった。

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