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青に滲む光  作者:
30/54

訪れる、初めての文化祭(灯視点)

 文化祭当日の朝。

 校門をくぐった瞬間から、いつもの学校とはまったく違うざわめきが波のように押し寄せてくる。

 二年生が仕上げた中央廊下の大きな装飾が動き始め、空気は少し湿気を帯びて熱っぽい。


 私たち一年二組の出し物は『物語喫茶』。

 教室いっぱいに物語をイメージした小物や布を飾りつけて、来た人に簡単なお茶を出して、冊子を配る。

 昨日の放課後までバタバタしていたけれど、なんとか形にはなった。


(みんな、来てくれるかな……)


 そんなことを思いながら開場の準備をしていると、あっという間にお客さんが入ってきて、教室は大忙しになった。


「白咲〜! こっちお願い!」


「はいっ、すぐ行く!」


 息を切らしながら接客を続けていると、時間は驚くほど早く過ぎた。


 そして――午前のピークが終わった頃、ようやく一息つけた。


(……水守くん、どうしてるかな)


 パソコン部の展示がある体育館横の部屋。

 私も手伝えるものなら手伝いたかったけど、文化祭当日はクラスを優先しなきゃいけない。

 でも、あの完成間近の映像作品……水守くんが編集していたところ、すごくよかった。


(無事に上映できてるといいな)


 そんなことを考えていたタイミングで、クラスのみんなが言った。


「白咲、もう午後は交代でいいよ。休んできなー」


「ありがとう。じゃあ、少し外出てくるね」


 エプロンのまま、私は廊下へ走り出した。

 身体は疲れてるはずなのに、足は軽かった。


 パソコン部の展示室の近く――外に出ると、彼はちょうどそこにいた。


「水守くん!」


 思わず声が弾む。

 水守くんが振り向く。

 少し驚いたような顔で。


「白咲さん。クラス、大丈夫だったの?」


「うん! 午前でピークは終わったよ。みんなで分担して、なんとか乗り切った感じだけどね」


 そう言うと、水守くんの表情がほんの少し柔らかくなった。


「そっちはどうだった? パソコン部の方」


「問題なかったよ。先輩たちのおかげで順調だった」


「そっか……よかった」


 本当にほっとした。

 胸の奥にあった緊張が、ゆっくりほどけていくのがわかった。


 ……それと同時に、心の中でもうひとつ、別の気持ちが顔を出す。


(……せっかくの文化祭なんだし)


 今日、水守くんと一緒に回りたい。

 そう思ったのは、きっと昨日でも明日でもなく、今日じゃなきゃ意味がない気がしたからだ。


 私は胸の前で手をぎゅっと握り、少しだけ息を整えて――


「あのね、水守くん」


「うん?」


「もし……もし、今から時間あるなら、一緒に回らない?」


 言った瞬間、心臓が跳ねた。

 顔が熱くなる。

 今日一番緊張する言葉だった。


「えっ」


「私も、午後は自由で。水守くんも、もう仕事落ち着いたんでしょ?

 せっかくの文化祭だし……二人で回れたら、楽しそうかなって」


 最後の方は、ほとんど囁くみたいな声になってしまった。


(水守くん……どう答えるかな)


 不安が、喉の奥までせり上がってきた。


「だ、だめ……かな?」


 思わず、そう続けてしまう。

 すると――


「だめじゃないよ。……うん。行こう、一緒に」


 その返事を聞いた瞬間、胸の奥がぱっと明るく弾けた。


「よかった……! じゃあ、行こっ」


 自然と笑顔がこぼれる。

 腕を少し振りながら歩き出すと、水守くんが横に並んでくれた。


 文化祭のざわめきや音楽はたしかに聞こえているのに、

 横を歩く彼の存在が、その音を全部やわらかく包んでしまうみたいだった。


「ねえ水守くん。まずどこ見る?」


「えっと……どこでもいいよ。白咲さんが行きたいところ」


「じゃあ……一緒に、回りながら決めよっか」


 並んで歩くと、緊張よりも嬉しさの方が大きかった。


(……文化祭が今日でよかった)


 そう自然に思えた。


 水彩画の匂い、屋台の呼び込み、遠くから聞こえてくる吹奏楽部の演奏。

 全部が今日だけの特別で、

 そして――


 隣に水守くんがいることも、私にとっては同じくらい特別だった。

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