初夏、少しずつ動き出す心(蒼太視点)
パソコン部の活動が終わるころ、部室には夕日が差し込み、机の影が長く伸びていた。
今日の作業は学校紹介動画の構成案づくり。
集中していたつもりだけど、それが「できていた」のかどうかは自信がない。
宮原先輩の指示は的確で、田島先輩は場を和ませてくれて……
その中で、俺だけ浮いている気がした。
「じゃ、今日はここまでー!」
「水守、白咲ちゃん、また明日な!」
部室を出ようとしたとき、足音が後ろから追いかけてきた。
「水守くん、帰るの?」
振り返ると、白咲が息を弾ませて立っていた。
なんでわざわざ俺に話しかけるんだろう、と思う。
別に珍しいことじゃないけど……心のどこかが落ち着かない。
「うん。白咲さんも?」
「うん。今日の水守くん、すごく集中してたよね。声をかけづらかった」
言われた瞬間、胸がざらりとした。
集中できてなかったらどうするつもりだったんだろう。
“すごい”なんて、本当にそう思って言ったのか。
社交辞令じゃないのか。
頭の中で、疑いの声ばかりが大きくなっていく。
「いや、俺なんか……全然だよ」
結局、いつも通りの返ししかできなかった。
二人で校門に向かって歩き出す。
白咲は自然に隣に並ぶけれど、そのたびに胸が締めつけられるようだった。
──どうして俺なんかと歩くんだろう。
そんな疑問が、歩くたびに浮かんでは消える。
きっと、ただの“部活仲間”だからだ。
深い意味なんて、あるわけない。
駅に近づいたころ、白咲が少しだけ足を止める。
「ねえ、水守くん。よかったら……駅まで一緒に行ってもいい?」
そんなの、だめな理由なんてどこにもない。
でも、俺なんかと歩くくらいなら他の奴の方がいいんじゃないか、とも思ってしまう。
「いいよ。……あの、白咲さんでよければ」
言ってから後悔した。
「でよければ」なんて、余計な言葉だ。
けれど白咲は、何も気にした様子なく微笑んだ。
駅に入って電車に乗ると、白咲がほっと息をついた。
「ねえ、水守くんの最寄り駅ってどこ?」
「俺? 桜川駅」
答えた瞬間、白咲の表情が大きく揺れた。
「えっ……私も桜川駅だよ」
驚いた顔を見て、胸が一瞬だけ熱くなる。
でもそのあとすぐ、冷静な声が心の中でつぶやいた。
──だからって、何も変わらないだろ。
それでも言葉が出た。
「そうだったんだ……近かったんだな」
「うん。なんか……うれしいかも」
その“うれしい”という言葉が、まるで罠みたいに甘く響く。
期待したら、きっと痛い思いをする。
分かってるけど、押し殺すように息を飲んだ。
桜川駅に着き、ホームに降りる。
並んで歩く影が夕日に伸びて、妙に綺麗で──それがまた胸をざわつかせた。
改札の前で白咲が振り返る。
「じゃあ、水守くん。また明日」
「……うん。また明日」
家への道を歩きながら、頭の中では同じ言葉が何度も繰り返される。
──同じ駅だとしても、距離が近づいたわけじゃない。
勘違いするなよ。
そう思えば思うほど、心は逆方向へ引っ張られていった。




