訪れる、初めての文化祭(蒼太視点)
文化祭当日の朝。
二年生が担当する校舎中央の装飾がすでに大きな音を立てて動いていて、校門前は普段よりもはるかに騒がしかった。
僕と白咲さんが属している一年二組は、教室を使った『物語喫茶』というテーマの展示。
物語をイメージした装飾と、小さな冊子の配布、簡単な接客がメインだ。
一方、僕の優先先であるパソコン部は、
完成した映像の上映と、作品の展示ブースが体育館横の特設室に作られている。
担当時間は午前が忙しく、午後は比較的自由になるスケジュールだった。
「水守、こっちのケーブル確認お願い」
「はい」
宮原先輩に呼ばれ、機材をチェックする。
上映トラブルが起きやすいのは、決まって開始直後だからだ。
部活の仕事をしながらも、ふと頭の片隅に同じクラスの展示のことが浮かぶ。
白咲さんは朝からずっとクラス側で働いているはずだ。
(……ちゃんとやれてるかな)
余計な心配だってわかっているのに、どうしても考えてしまう。
午前の仕事を終え、昼を過ぎた頃。
展示室の混雑が落ち着き、僕は涼みに外へ出た。
そのときだった。
「水守くん!」
振り向くと、制服の上にエプロンをつけた白咲さんが、軽く走りながらこっちへ来ていた。
髪には小さな紙片がついていて、忙しさがそのまま表れている。
「白咲さん。クラス、大丈夫だったの?」
「うん! 午前でピークは終わったよ。みんなで分担して、なんとか乗り切った感じだけどね」
ほっとしたような笑顔。
それを見ただけで、僕の胸の緊張がゆるむ。
「そっちはどうだった? パソコン部の方」
「問題なかったよ。先輩たちのおかげで順調だった」
「そっか……よかった」
白咲さんは胸に手を当てて、ふうっと息をついた。
そして――少し間を置いて、視線を上げる。
「あのね、水守くん」
「うん?」
「もし……もし、今から時間あるなら、一緒に回らない?」
「えっ」
「私も、午後は自由で。水守くんも、もう仕事落ち着いたんでしょ?
せっかくの文化祭だし……二人で回れたら、楽しそうかなって」
言い終えたあと、白咲さんはほんの少しだけ頬を赤くした。
胸がぎゅっと鳴る。
こんなふうに誘われるなんて思っていなくて、すぐに返事ができなかった。
「だ、だめ……かな?」
不安そうに僕をのぞき込む声。
その仕草にまた心臓が跳ねる。
「だめじゃないよ。……うん。行こう、一緒に」
言った瞬間、白咲さんの顔がぱっと明るくなる。
「よかった……! じゃあ、行こっ」
彼女が軽く腕を振るように歩き出す。
その横に並ぶと、文化祭の喧騒がいつもより遠く感じられた。
(まさか……こんなふうに白咲さんと回るなんて)
落ち着かない。
でも、嬉しい。
自分にそんな気持ちがあることを、認めるのが怖くもある。
「ねえ水守くん。まずどこ見る?」
「えっと……どこでもいいよ。白咲さんが行きたいところ」
「じゃあ……一緒に、回りながら決めよっか」
いつも自然体で、近くにいるだけで周りが明るくなるような人だ。
そんな人と並んで歩いていることが、少し信じられなかった。
文化祭の音楽、笑い声、屋台の匂い。
全部が、今日だけの特別みたいに色濃く感じられる。
(……いいな、この時間)
そう思ってしまった自分が、ほんの少し怖くて。
でも、その比率よりも何倍も大きく、胸の奥が温かかった。




