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青に滲む光  作者:
28/54

近づく文化祭(灯視点)

 二学期が始まって数日。

 学校の空気はすっかり文化祭一色になっていた。


 わたしのクラス――2組は出し物の準備が本格化していて、毎日教室はにぎやかだ。

 でもその分、パソコン部に行く時間が少し遅れてしまっている。


(……みんなに迷惑かけてないかな)


 そんな不安を胸に抱えながら、放課後、いつものように部室の扉を開いた。


「遅くなりました!」


 肩で少し息をしてしまう。急いで走ってきたのがバレバレだ。


「白咲さん、おつかれ。こっちは大丈夫だから、無理だけはしないでよ」


 宮原先輩の落ち着いた声に、自然と笑顔が出る。


「ありがとうございます。クラスもやっと形になってきました。……あ、水守くん、そのデータ見てもいい?」


 蒼太――いや、水守くんはいつもどおりの表情で頷いた。


「う、うん。ちょうど確認しようとしてたところ」


 わたしが隣に立つと、水守くんは少し椅子をずらしてスペースを空けてくれる。

 その気遣いが、胸の奥で静かに響いた。


 画面を見ると、映像が夏休みよりさらに綺麗になっていた。


「わあ……すごく良くなってる。水守くん、本当に編集上手だよね」


「そんなことないよ。ただ……慣れてるだけで」


「ううん、上手だよ。私、そう思う」


 これは本音だった。


 夏休み、ずっと作業を一緒にしてきた。

 その中で、どれだけ丁寧に、どれだけ真面目にやってくれていたか知ってる。

 だから、心からそう言えた。


 彼の肩が少しだけ震えた気がする。

 褒められ慣れていない反応が、なんだか少し可愛かった。



 部活が終わり、田島先輩の「今日はここまで!」の声で区切りがつく。


 部室を出れば、帰り道はいつもの二人。


 青葉台駅へ向かって、ゆるい坂道を並んで歩く。


「今日も遅くまでありがとう、水守くん」


「いや、僕は普通に来てただけだし……。白咲さんこそ、クラスも部活もあって大変だろ」


「うん、大変。でも……文化祭って好きだから、やっぱり頑張っちゃうんだよね」


 本当にそうなんだ。

 忙しいけど嫌じゃない。

 むしろ、この時期が一番ワクワクする。


 だけど――


(……やっぱり、水守くんと話せる時間が好きだな)


 誰にも言えない本音は胸の奥で膨らんでいくばかり。


 駅に着き、電車に乗る。

 夜に近い時間で車内は空いていて、どこか落ち着く。


「文化祭、もうすぐだね」


「そうだね。……夏休みも、あっという間だったな」


「うん。なんか……すごく濃かった気がする」


 そう言いながら、少しだけ目を伏せる。


(……特に、あの日)


 夏祭りで助けてくれたときの、水守くんの表情。

 あのときの胸の高鳴りが蘇る。


「水守くんは……どうだった? 夏休み」


「僕は……まあ、普通だったよ。部活の作業がほとんどだったし」


「ふふ、でも一緒に頑張れたから、私にはすごく良い夏だったよ」


 これは言わないと後悔すると思った。

 でも言った瞬間、自分の鼓動が早くなるのを感じた。


「……それなら、よかった」


 彼の声は静かで、でもどこか揺れていた。


(もっと……近づきたいな)


 胸が苦しくなるくらい強く思う。


 やがてアナウンスが流れる。


『次は――桜川』


「あ、もう着いちゃうね」


「そうだね」


 桜川駅の改札前で立ち止まると、いつもの別れの時間が来る。


「じゃあ……また明日。部活、最後まで一緒に頑張ろうね」


「うん。また明日」


 水守くんが返してくれた声が、いつもより少しだけ優しく聞こえた。


 改札を抜けると、背中が熱くて仕方なかった。


(文化祭が終わったら……言うんだ)


 夏祭りの日から決めていたこと。

 怖いけど、それでも。


(ちゃんと想いを伝えたい)


 胸の奥でひっそりと灯る決意を抱きながら、わたしは家までの道を歩いていった。

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