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青に滲む光  作者:
27/54

近づく文化祭(蒼太視点)

夏休みが終わって数日。

 二学期が始まると同時に、学校全体が文化祭モードに切り替わった。

 僕たちパソコン部の準備も、いよいよ最終盤に入っている。


 放課後の部室は、パソコンのファンの音と、キーボードを叩く小さな音だけが響いていた。

 夏休み中に大半の作業を終えたおかげで、残っているのは微調整や展示の配置、上映スケジュールの確認くらいだ。


「水守くん、こっちは映像の色補正、終わったよ」


 宮原先輩が、落ち着いた声で僕に声をかけてくれた。


「ありがとうございます。じゃあ、そのデータ、こっちのフォルダに入れておいてもらえますか」


「了解」


 ほんの短いやり取り。

 でも、こうして自分が必要とされている感じは少しだけ心地よい。


 そんななか、部室の扉が開く。


「遅くなりました!」


 白咲さんが、肩で息をしながら入ってきた。


 教室の文化祭準備が佳境らしく、ここ数日は毎日少し遅れて部室に来ている。

 そのたびに「お疲れさま」と声をかけたいのに、僕はうまく言葉にできない。


「白咲さん、おつかれ。こっちは大丈夫だから、無理だけはしないでよ」


 宮原先輩の声に、白咲さんは明るく笑う。


「ありがとうございます。クラスもやっと形になってきました。……あ、水守くん、そのデータ見てもいい?」


「う、うん。ちょうど確認しようとしてたところ」


 僕が椅子を少しずらすと、白咲さんが横に来て画面を覗き込む。

 距離が近くて、心臓が落ち着かない。


「わあ……すごく良くなってる。水守くん、本当に編集上手だよね」


「そんなことないよ。ただ……慣れてるだけで」


「ううん、上手だよ。私、そう思う」


 迷いのない声で言われると、どうしても胸が熱くなる。


(……どうして、こんなにまっすぐ言えるんだろう)


 僕なんか、褒められても自分に価値があるなんて思えないのに。


 その後も、白咲さんは僕の横で作業を手伝ってくれた。

 作業量は少ないのに、彼女が来るだけで部室の雰囲気が明るくなった気がする。


 夕方、作業が一区切りつくと、田島先輩が手を打った。


「じゃあ今日はここまで! 本番まであと少しだし、体調崩すなよー」


「はーい」


 先輩ふたりに見送られながら、僕と白咲さんは部室を後にした。


 ――そしていつもの帰り道。


 校舎から青葉台駅までのゆるい坂道を並んで歩く。

 夏の空気はまだ残っていて、陽が落ちても湿度がまとわりつくようだった。


「今日も遅くまでありがとう、水守くん」


「いや、僕は普通に来てただけだし……。白咲さんこそ、クラスも部活もあって大変だろ」


「うん、大変。でも……文化祭って好きだから、やっぱり頑張っちゃうんだよね」


 そう言って笑う横顔は、いつもより少し疲れて見えたけれど、それ以上に楽しそうだった。


 青葉台駅に着き、電車に乗る。

 桜川駅までは三駅だけど、この時間は人が少なくて落ち着く。


「文化祭、もうすぐだね」


「そうだね。……夏休みも、あっという間だったな」


「うん。なんか……すごく濃かった気がする」


 白咲さんが、言葉を選ぶようにぽつりと言う。


 思わず視線を向けると、彼女は窓の外を見たまま、少しだけ頬を染めていた。


(……夏祭りのこと、思い出してるのかな)


 胸の奥がざわつく。


「水守くんは……どうだった? 夏休み」


「僕は……まあ、普通だったよ。部活の作業がほとんどだったし」


「ふふ、でも一緒に頑張れたから、私にはすごく良い夏だったよ」


 そんなことを平然と言うから、また言葉が詰まる。


「……それなら、よかった」


 本当はもっと言いたい。

 でも、変に期待しそうで怖い。


 電車が減速し、アナウンスが流れる。


『次は――桜川』


「あ、もう着いちゃうね」


「そうだね」


 桜川駅の改札の前で、僕たちはいつものように立ち止まる。


「じゃあ……また明日。部活、最後まで一緒に頑張ろうね」


「うん。また明日」


 白咲さんは小さく手を振り、改札を抜けていった。

 浴衣姿で困っていたあの日が、一瞬だけ頭をよぎる。


(……あの時より、距離は近くなったのかな)


 そう思うのに、確信が持てない自分が情けない。


 それでも、心のどこかで期待している自分がいる。


(文化祭……早く終わらないかな)


 そんなことを思いながら、僕は家へと歩き出した。

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