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青に滲む光  作者:
26/54

夏祭り、変わる二人(灯視点)

 夏休みが始まって三週間が過ぎたある夕方。

 私は、地域の夏祭りの手伝いを頼まれて、割り振られた時間の仕事を終え、休憩に入っていた。


 町内会の人が「せっかくだし着ていきなさい」と貸してくれた浴衣。

 薄い藤色の柄が気に入って、胸の奥が少しそわそわした。


(……浴衣で歩くの、思ったより恥ずかしいなあ)


 けれど、せっかくの夏祭りだ。

 いつもより人が多く、屋台の明かりに照らされて街が浮かび上がる。


(ちょっとだけ、屋台見てから戻ろう)


 そう思って歩き出したときだった。


「ねえねえ、いいじゃん。どこ行くの? 祭りってさ、一人で歩くより誰かいた方が楽しいって」


「困ってるなら言ってよ。案内してあげるからさ」


 正面から、二人組の男の人が近づいてきた。

 声をかけられた瞬間は笑ってかわしたけど、ついてくる気配がある。


「あ、あの……大丈夫なので」


 そう言っても、距離をとっても、ついてくる。


 心臓がいやな鼓動を打った。


(どうしよう……)


 周りはにぎやかで、助けを呼ぶほどのことでもない――そう思おうとした。

 けれど、逃げるほどの勇気もない。

 足が止まりそうになった、そのとき。


 ――聞き覚えのある声がした。


「白咲さん。……待たせて、ごめん」


 振り返った瞬間、胸が驚きで跳ねた。


(水守くん……?)


 浴衣姿の私を見つけたわけじゃなく、困っている私を見て来てくれた。

 その事実だけで、胸の奥がじんわり熱くなる。


「誰? 彼氏?」


 男たちが面倒くさそうに水守くんを見る。

 いつもなら俯きそうな彼が、ぎこちないながらも前に立ってくれた。


「いや……単なる、クラスメイトです。だから、もう行きます」


 声は震えていた。

 でも、その背中は、確かに私を守っていた。


(……すごい)


 そう思った瞬間、ほっとして、笑ってしまった。


「……水守くん、来てくれたんだ。ありがとう」


 本当に、心から、そう思った。


 その一言が伝わったのか、男たちは諦めたように舌打ちして去っていく。


 胸の奥が熱い。

 緊張がほどけたのか、ようやく息がつけた。


「助けてくれて……本当にありがとう。まさか、水守くんが来てくれるなんて思わなくて」


「……たまたま、見かけただけだよ」


 照れ隠しだというのが手に取るようにわかる。

 その不器用さが、どうしようもなく愛おしかった。


「全然、たまたまじゃなくてもいいよ。わたし、すごく嬉しかったから」


 言いながら、胸がぎゅっと締めつけられる。

 あのとき感じた怖さよりも、今の気持ちの方がずっと強い。


 ――そこへ、元気な声が飛んできた。


「お兄! あれ? 白咲先輩? ……今、お兄、人助けしてた?」


 振り向くと、中学生くらいの女の子が、にやにやしながら水守くんの腕を引いている。


 妹さんだ、とすぐにわかった。


(水守くん、お兄ちゃんなんだ……)


 なんだか少し微笑ましい。


「珍し〜!」


「……うるさい」


 葵ちゃんの言葉に、真っ赤になって反論する姿を見て、思わず笑ってしまう。


 こんな一面を見るなんて思わなかった。


 でも、それ以上に――

 助けに来てくれた時の水守くんの姿が、頭から離れなかった。


「じゃあ……わたし、もう手伝いに戻るね。水守くん、本当にありがとう」


 名残惜しさを押し隠しながら、言葉を残す。


「……うん。気をつけて」


 その返事が優しくて、胸がじん、とした。


(……どうしよう)


 あのまま、その場から離れた私は、歩きながらそっと胸に手を当てる。


 さっきまでの鼓動とはまったく違う、熱い鼓動。


 怖かったことも、戸惑ったことも、全部吹き飛ぶくらい。


(……好きになってしまうよ、こんなの)


 浴衣の裾を握りしめながら、顔が熱くなるのをどうにもできなかった。

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