終わりの鐘と始まる言葉(蒼太視点)
テスト期間最終日の二時間目が終わり、解放感と疲労が入り混じった空気が教室に漂っていた。周りはすでに友人同士で答案の感想を言い合ったり、帰りの予定を立てたりしている。けれど、俺はなんとなく机を片付ける手が遅い。
一週間前のことが頭に浮かぶ。
部活が禁止になり、帰りはいつも一人になると思っていたのに、「水守くん、一緒に帰らない?」と白咲さんが言ってくれた日。驚きすぎて返事がぎこちなかったし、横に並んで歩く間、うまく言葉を選べない自分に焦ってばかりだった。
その後、テスト勉強が本格的に始まって、連絡は必要最低限。教室でも席が近くないせいで話す機会はほとんどなかった。
その“空白”が、俺には妙に重かった。
話すのが嫌なわけじゃない。ただ……自分なんかが期待していいのか、距離を縮めていいのか、わからなくなる。
今日もきっと、こっちからは声をかけられない。
そんなことを思っていたら——
「……水守くん」
小さな、でもはっきりした声が背中側から届いた。
振り返ると、白咲さんが教科書を抱えたまま立っていた。目が合うと、少しだけほっとしたように微笑む。
「やっとテスト終わったね。お疲れさま」
「あ、うん……白咲さんも。お疲れ」
本当に久しぶりに、ちゃんと顔を見て話した気がする。だけど俺の声は少し緊張している。
白咲さんは一拍置いて、控えめに問いかけてきた。
「今日さ……よかったら、また一緒に帰らない?」
胸の奥が一瞬だけ強く脈打つ。
テストで会えなかった分の“距離”を、彼女は気にしていないみたいだ。むしろ——その逆のように見える。
「迷惑じゃなかったなら、だけど……」
彼女が不安そうに付け足したので、俺は慌てて首を振った。
「いや、迷惑なんて……! むしろ、その……嬉しい、かも」
言った瞬間、顔が熱くなる。
けれど白咲さんは、ふっと花みたいに柔らかく笑った。
「じゃあ決まりだね」
その笑顔を見て、
——距離が縮まったのは偶然なんかじゃなかったのかもしれない。
そんな考えが、少しだけ胸の奥に生まれた。




