放課後の帰り道(灯視点)
定期テスト前で、学校全体が少し静かに感じる。
部活が禁止になる期間は、放課後がいつもより早く過ぎてしまう。
(……今日、どうしよう)
部活がない放課後。
いつもは水守くんと作業してから帰る日が多かったのに、今日はそれがない。
クラスの中で普通に話すことはあっても、
“自分から帰りに誘う”なんて、したことがなかった。
理由は……怖かったから。
クラスの目もあるし、もっと言えば、
断られるのが何より怖い。
だけど最近、水守くんとメッセージで話す時間が増えた。
内容は勉強のこととか文化祭の編集のこととか、
他愛ないものばかりなのに、
それがすごく嬉しかった。
(……会って話したいな)
胸の奥にそんな願いが生まれた瞬間、
水守くんが席を立つのが見えた。
帰ってしまう。
その背中を見たら、心が決まった。
「……水守くん」
声が震えた。
でも、それでも呼んだ。
彼が振り向いた瞬間、胸がぎゅっと縮まる。
驚いた表情。
その顔を見るだけで、心臓が痛いほど動いた。
「今日、部活ないけど……一緒に帰ってもいい?」
言ってしまった。
もう戻れない。
断られるかもしれない。
でも、それでも言いたかった。
少しの沈黙のあと、水守くんが戸惑った声で返す。
「……僕と、ですか?」
思わず笑いそうになった。
水守くんらしい返しだったから。
「うん。だめ……かな?」
ほんとうは、“一緒に帰りたい”が本音。
でも、それはどうしても言えなくて。
少し間があったあと、水守くんが視線を落としてつぶやく。
「……いいですよ。一緒に帰りましょう」
その言葉だけで、世界が少し明るく見えた。
(よかった……)
胸の奥が熱くなる。
この気持ちは、隠せない。
でも隠さなきゃいけない。
二人で桜川駅へ向かう道は、いつもより涼しく感じた。
「テスト勉強、大変だよね……水守くんはどう?」
「……まあ、普通です。得意じゃないですけど」
その言い方が可愛くて、自然に笑顔がこぼれる。
「そうなんだ。私、数学がちょっと不安で……」
話しながら、横顔を何度も見てしまう。
見て、慌てて前を向く。
そんなことを何度も繰り返してしまった。
(どうしてこんなに……)
歩くだけで、話すだけで、胸が温かくなる。
でも伝えてしまったら、もっと壊れてしまう気がする。
だから言えない。
言えないまま、隣にいたい。
桜川駅につく頃には、心が騒ぎすぎて少し疲れるほどだった。
でも――
(……今日、誘えてよかった)
その気持ちだけは、嘘じゃなかった。




