表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青に滲む光  作者:
2/54

春、始まりの画面(灯視点)

 春の風は少し冷たかった。

 桜の花びらが舞うたびに、期待よりも不安のほうが少しだけ大きくなる。


 私立青陵高校。

 ずっと行きたかった学校。勉強も部活も、きっと充実した日々が待っている——

 そんなふうに思っていた。

 でも本当は、心のどこかでわかっていた。

 私は“完璧”に見られているだけで、本当の私を知ってくれる人なんて、あまりいない。


 入学式の日、隣のクラスに見覚えのある名前を見つけた。

 「水守 蒼太」

 中学のとき、同じクラスだった人。

 いつも静かで、誰よりも人をよく見ていた人。


 誰かが笑われているとき、一番最初に目を伏せるのが彼だった。

 優しさに気づかれないように、そっとしておくような人。

 その背中が、なぜかずっと印象に残っていた。


 高校でも同じ学年。

 それだけで少し嬉しくなってしまう自分に、呆れる。

 私は、ちゃんと前を向いているはずなのに。


 部活動紹介の日。

 体育館は活気にあふれていた。運動部の声が響いて、空気が熱を帯びている。

 でも、私の目はすぐに一か所で止まった。


 《パソコン部》


 そこに、彼がいた。

 ブースの前で、少し戸惑いながら説明を聞いている蒼太の横顔。

 相変わらず目立たない。けれど、その表情はどこか真剣で。


 ——入るんだ、この部に。


 気づいたときには、もう決めていた。

 理由なんて、後からどうとでも言える。

 “動画編集に興味がある”って言えば、それで通る。


 入部初日。

 部室のドアを開けると、先輩たちの声が明るく響いていた。

 「ようこそ、パソコン部へ!」と笑顔で迎える副部長の田島先輩。

 その隣には落ち着いた雰囲気の宮原先輩。

 どちらも優しそうで、すぐに安心できた。


 でも——部屋の奥に座る彼を見つけた瞬間、心臓が一度だけ跳ねた。


 「……水守くん?」


 思わず声をかけていた。

 彼は少し驚いたように目を見開き、ゆっくりとうなずく。

 「白咲……同じ部活なんだ」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 偶然でも、運命でも、どちらでもいい。

 また話せる、それだけで十分だった。


 「どうしてパソコン部に?」と聞かれて、少し迷った末に答えた。

 「動画編集に興味があって。……あと、やってみたかったから」


 本当は違う。

 彼の近くにいたかった。ただ、それだけ。


 活動が始まり、キーボードの音が部室に響く。

 ファイルを共有し合う声、先輩たちの軽い冗談。

 その中で、蒼太はほとんど話さなかった。

 けれど、画面を見つめる横顔は真剣で、少しだけ楽しそうで。


 私は、その表情を見て、思った。


 あの人が自分のことを少しでも好きになれたらいいのに。


 その願いが、春風に溶けていく。

 窓の外では、桜の花びらが散り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ