放課後の帰り道(蒼太視点)
定期テスト1週間前。
放課後の教室には、ふだんとは違う静けさがあった。
部活がないせいで、生徒の流れが早い。
帰る準備をしているうちに、教室のざわめきはどんどん薄れていった。
(部活ないと……やっぱり静かだな)
いつもならパソコン部の部室へ向かう時間だけど、今日はその必要がない。
だからといって、特別な予定があるわけでもない。
普段どおり、一人で帰る。
それだけのはずだった。
鞄を肩にかけ、教室を出ようとしたそのときだった。
「……水守くん」
名前を呼ばれて振り向くと、白咲さんが立っていた。
少しだけ、息を整えるみたいに胸の前で手を握っている。
「今日、部活ないけど……一緒に帰ってもいい?」
一瞬、時間が止まった気がした。
いつもは、部活の流れで自然と一緒に帰っていた。
だからこそ、部活がない今日は“そうじゃない”理由が必要なはずで。
なのに彼女は、それをはっきり言葉にした。
「……僕と、ですか?」
気づけば、そんなことを聞いていた。
間抜けだと思う。
でも、驚きと戸惑いでそれしか言えなかった。
白咲さんは小さく頷いた。
「うん。だめ……かな?」
だめなわけがない。
むしろ、そんなふうに言われたら胸が痛くなる。
でも同時に、怖さも湧いてきた。
クラスの目とか、彼女がどう思っているかとか、
そういうことを考え出すと足がすくむ。
だけど――
「……いいですよ。一緒に帰りましょう」
気づけば、答えていた。
白咲さんの顔が、ぱっと明るくなる。
その瞬間、胸の奥がぐらっと揺れた。
(……なんなんだよ、この感じ)
ただ一緒に帰るだけなのに、理由も分からない熱が込み上げてくる。
桜川駅に向かう道。
普段と変わらない景色のはずなのに、今日は少しだけ違って見えた。
隣にいるのが、白咲さんだからだ。
「テスト勉強、大変だよね……水守くんはどう?」
「……まあ、普通です。得意じゃないですけど」
「そうなんだ。私、数学がちょっと不安で……」
そんな他愛ない会話だけで、なぜか鼓動が速くなる。
しかも白咲さんは、時々こちらを見上げる。
そのたびに、呼吸が乱れる。
(……どうして誘ったんだろう)
聞きたいけど聞けない。
そんなことを聞く資格は、自分にない。
だけど――白咲さんは終始少しだけ嬉しそうで。
その笑顔を見るたびに、胸のどこかが解けていく気がした。
桜川駅が近づく頃、僕は小さく息を吐いた。
(……やっぱり、怖い)
こんなふうに期待してしまう自分が。
それでも、彼女と歩けたことが嬉しかった。
認めたくないけれど、それだけは確かだった。




