揺れ始める距離(灯視点)
七月。
湿気の多い風が吹くたびに、心まで熱くなりそうだった。
最近は放課後になると、自然と水守くんの隣で作業するようになっている。
近くにいると落ち着くし、声をかければすぐ返ってくる。
そんな距離が、嬉しくてたまらない。
でも、その分だけ気持ちが抑えきれなくなっていく。
部室で動画の編集を見せてもらっているときも、彼の横顔ばかり追ってしまう。
そんな自分に気づくたび、胸が苦しくなる。
部活が終わり、いつものように二人で廊下を歩き出す。
「今日の動画編集……見せてもらってもいい?」
自分でも分かってる。
ただ、もっと話す理由が欲しいだけだ。
「……うん。一応、少しだけ進めたけど」
控えめな声。
でも、それがいい。
水守くんらしいから。
「水守くんって、ほんとに頑張ってるよね。すごいなって思う」
本音だった。
でも、彼はきっと否定するだろうと思いながら。
「……そんなことないですよ」
やっぱり。
褒められ慣れていないその反応が、愛しくてたまらない。
こんな気持ち、知られたくないけど。
桜川駅が近づいたところで、思い切って言った。
「今日の夜、また動画の相談したいんだけど……いい?」
ほんとは“話したい”が本音。
でも、それは言えない。
「……うん、大丈夫です」
その返事だけで心があたたかくなる。
こんなふうに嬉しくなる自分が、昔の私なら想像もしなかった。
改札前で立ち止まり、いつもの笑顔を作る。
「……じゃあ、また明日ね、水守くん」
彼は少しだけ視線をそらしてから答えた。
「うん……また」
その一言が、私の胸をじんわり満たした。
(好きが、止まらないよ……)
言えないまま、その気持ちを抱えたまま改札を抜けた。




