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青に滲む光  作者:
15/54

触れ始めた距離(蒼太視点)

六月が終わりに近づいて、部室の中もむっとした空気がこもるようになってきた。

文化祭の準備が本格的になって、パソコン部も忙しくなってきた。


今日は動画の構成を決めるために、放課後に二人で作業していた。

気づけば窓の外は少し暗くなっていて、部室の蛍光灯が白く光っている。


「……ここ、もうちょっと明るいカットが欲しいね」


白咲さんがモニターを覗き込みながらつぶやく。

その横顔に、僕の喉がひゅっと鳴った。


真剣な表情なのに、どこか優しくて。

こんな距離で見ていたら、変な気持ちになってしまう。


「そ、そうですね……明日、外で撮りますか」


「うん。……あ、でも放課後だけだと時間足りないかも」


そう言って白咲さんは少し考えるように唇に指を当てた。

その仕草すら綺麗で、僕は視線を外すしかできなかった。


(僕なんかが、同じ班で作業してていいんだろうか……)


そんなことを考えていると、


「ねえ、水守くん」


名前を呼ばれて、思わず肩がビクッと動いた。


白咲さんは、少しだけ躊躇うようにしてから続けた。


「……もしよかったら、連絡先、交換しない?」


「えっ」


頭が真っ白になった。


「ほら、文化祭の作業って急に確認したいこととか出るかもしれないし……。

 連絡できたほうが便利だと思って」


“文化祭のため”――そう言われれば、確かに必要だ。

でも、それでも僕は混乱していた。


(なんで……僕なんかと?)


もっと話しやすい人はいくらでもいるはずだ。

僕に連絡先なんて、交換する価値なんて——。


「……迷惑だったら、ごめんね?」


白咲さんが少し不安そうに言った。

そんな顔をされると、断れるわけがなかった。


「い、いえ……迷惑とか……そんなの……。

 必要なら……交換、したほうが……いいですよね」


声がうまく出なくて、情けない。


「うん。ありがとう」


ぱっと笑う。

胸の奥がじわりと熱くなる。


スマホを取り出す手が震えて、QRコードを読み取るのにも時間がかかった。

交換が完了した瞬間、画面に「白咲灯」の文字が表示される。


たったそれだけなのに、心臓が跳ねた。


(……やばい、落ち着け)


ただの連絡手段。

それ以上でも以下でもないはずなのに。


でも白咲さんは、

自分のスマホの画面を見て、少し嬉しそうに微笑んでいた。


「これで、連絡とれるね。

 ……よろしくね、水守くん」


その声にはほんの少しの照れがあって、

それがまた僕の胸を締めつけた。


「よ、よろしく……お願いします」


情けない返事しかできない。

けれど、白咲さんはそんな僕を笑わなかった。


帰り道、いつも通り桜川駅に着くころには、

手の中のスマホがやけに重く感じた。


(連絡先……交換したんだ。僕が……白咲さんと)


信じられない。

けど、嬉しい。


そんな気持ちを認めるのが、まだ怖かった。


ただ、画面に浮かぶ彼女の名前を何度も見てしまって、

そのたびに心臓が痛いくらい跳ねるのだけは、ごまかせなかった。

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