表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青に滲む光  作者:
14/54

静かに滲む想い(灯視点)

六月の湿気は、髪の毛がゆるく波打つくらいには厄介だった。

部活のある日は特に、校舎の中がむわっとしていて息苦しい。


少し急いで部室へ向かい、扉を開けた瞬間——


「こんにちは。あ、みんなもう来てるんだ」


そう言いながら入った私の視界に、

ちょうどこちらを向いた水守くんの姿が入る。


その目と合った瞬間——ほんの一瞬だけど、

彼が慌てて視線をそらすのが分かった。


(……また、逸らされた)


胸がちくりと痛む。それでも、嫌じゃない。

彼らしい反応だと思えるから。


「白咲も、ちょうどいいとこ来たな」


田島先輩が明るい声で手を叩く。


「今年は動画班、二人に任せたいんだけどさ。どうだ?」


「任せてもらえるなら……がんばります」


自然とそう答えていた。

文化祭の動画なんて責任重大だけど、水守くんと一緒なら——

そう思った瞬間、自分で気づいていないふりをした。


横を見ると、水守くんは驚いたように固まっている。

その反応が、なんだか可愛い。


「水守くんはどう?」


田島先輩の声に、水守くんがびくっと肩を揺らした。


「え……いや、僕は……その……」


困っている。

でも、逃げるような目じゃなかった。


私はゆっくり、まっすぐに彼を見つめる。


「一緒にできたらうれしい、けど……迷惑なら言ってね」


言いながら、心臓がぎゅっと縮んだ。


(迷惑なんて……思われてないよね?

でも、水守くんは自分のことを低く見てるから……)


返事が返ってくるまでの数秒が、息が詰まるほど長かった。


「……迷惑じゃ……ないです。やります」


その声を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。


(……よかった)


思わず笑顔になった。

自分でも分かるくらい、嬉しさが顔に滲んでいる。


そのときだった。

水守くんが、ほんの一瞬だけ私の顔を見て——

すぐに視線を落とした。


その仕草だけで心が揺れる。


(どうしてこんなことで……)


理由は分かっているくせに、認めるのが怖いのは私の方だ。



帰り道。

気づけばいつものように、水守くんが隣を歩いていた。


蒼太視点で描かれていたあの沈黙も、鼓動も、

全部、私も感じていた。


「今日、担当決まってよかったね。動画、楽しみかも」


言葉にすると、どこかくすぐったい。

でも、本当にそう思っていた。


「……僕は別に。得意でもないし」


相変わらずの自己評価の低さ。

そんなところを直してほしいなんて、まだ言えない。


でも、つい本音がこぼれる。


「でも、水守くんの作るの、きっと丁寧だと思うよ」


瞬間、水守くんの肩が少しだけ揺れた。

気づく人は少ないかもしれないけど、私は分かる。


(図星、だよね)


驚かせたかったわけじゃない。

ただ伝えたかった。


「……なんでそう思うんですか」


その声は、どこか不安を含んでいて。


だから私は、ちゃんと伝えた。


「うん。水守くん、いつも周り見てるから。そういう人って、細かいところに気づけるし……優しいと思う」


言ってから、自分の胸が熱くなる。

“優しい”と口にした瞬間、

自分の気持ちに蓋ができなくなっていくのが分かった。


(……好き、なんだ)


もう誤魔化せない。


怖いほど、彼のことが目に入る。


態度も、声も、表情も。


全部。


なのに——


「……文化祭、頑張りましょう」


不意に出たその言葉に、私は息を飲んだ。


驚いて、水守くんを見る。


彼は前を向いたままだけど、

その声はさっきよりずっと柔らかくて。


(……ああ、ダメだ)


この瞬間、完全に悟った。


——もう、止められない。


「うん!」


精一杯の笑顔を向けた。

嬉しさが、抑えられなかった。


歩く足取りが軽くなる。

湿った風すら心地よく感じた。


水守くんと話せるだけで、

その横顔を見られるだけで、

胸の奥がじんわりと温かくなる。


帰り道が、こんなにも短く感じたのは初めてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ