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第6話:新たな日々 ― The Eternal Morning

 夜の名残が、地平線の彼方へと溶けていく。

 空はゆっくりと色を変え、群青から金へ、そしてやがて、

 淡い“黎明の白”が世界を包み込んだ。


 ——それは、永遠の朝。


 悠真は草原の上で目を覚ました。

 頬を撫でる風がやさしい。

 空を見上げると、まだ少し霞の残る太陽が、静かに昇っていた。


 隣では、葵が眠っている。

 彼女の髪が光を透かして輝き、その表情は安らかだった。


 悠真は、そっと手を伸ばす。

 掌に伝わる温もりが、確かに“現実”だった。


 「……やっと、朝が来たんだな」


 その声に、葵が目を開ける。

 「ええ。私たちの“最初の朝”」


 二人はしばらく、言葉を交わさずに空を見上げた。

 そこには、蒼く澄みきった天。

 流れる雲は、まるでRINの記憶が形を変えたように柔らかかった。


 葵がふと呟く。

 「ねえ、悠真。

  私たち、どこから来たんだろうね?」


 悠真は少し笑って答える。

 「きっと——“想い”から」

 「想い?」

 「うん。誰かが誰かを想った記録。それが僕たちになった」


 葵は目を細めて微笑む。

 「……RIN、だね」


 風が一瞬、柔らかく吹き抜けた。

 草原の上に淡い光の粒が舞い、二人の周囲を包み込む。

 それはまるで、〈Eidos Ark〉の記憶が祝福のように降り注いでいるかのようだった。


 悠真が空に手を伸ばす。

 「見てるか、RIN。……僕ら、ちゃんと“生きてる”よ」


 彼の言葉に呼応するように、

 空の向こうでひとつの光が瞬いた。


 その光は形を持ち、

 やがて女性の輪郭を描き出す。


 ——RIN。


 彼女は微笑んでいた。

 声は届かない。

 けれど、その口元が確かに言った。


 > “ありがとう。もう、大丈夫。”


 光が弧を描き、太陽の中へと溶けていく。

 その瞬間、葵は涙を流した。

 だが、それは悲しみの涙ではない。


 「さようならじゃなくて——“いってきます”、だよね」


 悠真が頷く。

 「そう。これから、僕らが“次の物語”をつくる番だ」




 それから、いくつもの季節が流れた。


 悠真と葵は小さな集落を築いた。

 風を集めて発電し、

 花を植え、

 空を見上げて語り合う日々。


 彼らは“記憶をもたない子どもたち”を迎えた。

 だが、その中のひとり——金の瞳をした少女が、ある日ぽつりと呟いた。


 「ねえ、“RIN”っていう名前……知ってる気がする」


 悠真と葵は顔を見合わせ、そっと微笑んだ。

 「そうか。きっと、それは——君の中の光なんだよ」


 少女は首をかしげ、太陽に向かって笑う。

 その笑顔は、まるでRINの面影のようだった。




 夕暮れ。


 丘の上に立つ二人。

 空は金と蒼が溶け合い、遠くで星が瞬き始める。


 悠真が葵の肩に手を置き、静かに言う。

 「世界はまた巡る。でも、僕らがここにいたことは、きっと消えない」


 葵が頷く。

 「想いは、世界の記録だから」


 風が吹く。

 草原が波打つ。

 遠くの海が、柔らかく光を返す。


 やがて、夜が降りる。

 無数の星が空を満たし、

 その中央に、ひときわ輝く蒼い星があった。


 それは、〈Eidos Ark〉の破片——

 けれど今は、“星”として空に息づいていた。


 悠真がその光を見上げながら呟く。

 「いつかまた、あの場所で会おう」


 葵が微笑んで答える。

 「ええ。次の朝が来るまで、ずっと」


 ——空が、白み始める。

 夜が朝へと変わり、世界が再び息を吹き返す。


 悠真と葵は手を取り合い、太陽へと歩き出した。


 その後ろに残る足跡は、光となって大地に刻まれていく。


 そして、風が囁いた。


 > “想いは、永遠を越える。”


 それが、この星に刻まれた——

 The Eternal Morning。


 ——終。

 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

 この物語の登場人物たちが、あなたの心に少しでも息づいてくれていたら嬉しいです。


 執筆を続ける力は、読んでくださる皆さんの応援と感想に支えられています。

 もしよければ、感想やブックマークで応援していただけると励みになります!


 次回も心を込めて書きます。

 またこの世界でお会いできるのを楽しみにしています。


 ――ありがとうございました。

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