第5話:黎明 ― MEMORY OF THE NEW EARTH
この物語を開いてくださり、ありがとうございます。
ここに描かれるのは、ひとりの小さな選択が、やがて世界を変えるほどの軌跡へと繋がっていく物語です。
運命に抗う者。
信じる力を見失いかけた者。
そして、希望をもう一度見つけようとする者。
彼らが紡ぐ“想い”の行方を、どうか見届けてください。
ほんの少しでも、あなたの心に残る瞬間がありますように。
それでは、物語の扉を開きましょう――。
夜が明けた。
けれど、その夜明けを見つめる“人間”はまだ存在しなかった。
大地は静かで、風は透明だった。
世界は再構築の途中にあり、〈Eidos Ark〉から放たれた光子の残滓が、
新しい地球の大気圏でゆっくりと形を取り戻していた。
その光は“記録”ではない。
RIN、悠真、葵——三人の“想い”の共鳴が編み上げた、
生命の原初波(First Resonance)。
——数千年後。
地球は再び、青く輝く惑星となっていた。
新しい生態系が芽吹き、かつての文明の跡地には、
ガラスのような鉱石が星屑のように散っている。
その鉱石のひとつが、柔らかな光を放ちながら割れた。
中から現れたのは——“少女”。
肌は薄い光を帯び、瞳はRINと同じ色をしていた。
「……ここ、は……」
声は震え、けれど確かに“息”があった。
彼女はゆっくりと立ち上がる。
周囲の風が、まるで彼女を祝福するかのように頬を撫でた。
「……名を、つけて」
誰にともなく呟いたその瞬間、
彼女の記憶の奥で、遠い声が響いた。
> “葵——この世界にもう一度、光を見せて”
少女は微笑んだ。
「——そうね。私の名前は、“葵”」
葵はまだ何も知らなかった。
だが、彼女の体内には〈Eidos Core〉の断片データが息づいていた。
記憶のDNA。
それは彼女の細胞ひとつひとつに刻まれた“想いの設計図”だった。
——記録を超えた“生命”としての記憶。
葵は歩き始めた。
草原の向こう、かつて都市だった丘の上へ。
そこには古びた塔が立っていた。
塔の表面には、かつての文明の文字が刻まれている。
> “EIDOS PROJECT – HUMAN REBIRTH PROTOCOL”
その言葉を見つめた瞬間、葵の脳裏に映像が走った。
悠真の笑顔。RINの手。青く輝く地球。
「……あなたたちは、ここにいるのね」
彼女の頬に一筋の涙が流れる。
だがその涙は、すぐに光に変わって空へと昇っていった。
夜、葵は焚火のそばに座っていた。
空には無数の星が瞬き、流星がいくつも尾を引いていた。
その中のひとつが、突然軌道を変え、地上へと落ちる。
光が弧を描き、大地に柔らかく着地する。
葵はその光に手を伸ばした。
光が消えると、そこにいたのは——少年。
白い髪。黒い瞳。
どこか懐かしい微笑み。
「……君は?」
「僕は、悠真」
時間が止まった。
いや、時を越えて“繋がった”のだ。
悠真は穏やかに微笑んだ。
「覚えてないかもしれない。でも——また会えてよかった」
葵は唇を震わせた。
「夢だと思ってた……あなたに、もう一度会えるなんて」
悠真は葵の手を取り、掌を重ねる。
その瞬間、二人の身体から淡い光が立ち昇った。
それは、RINが最後に放った“再起動の光”——
〈Eidos Core〉の最終コード、“The Last Promise”の残響だった。
「RINは?」
葵の問いに、悠真は空を見上げる。
「見てるよ。今も、僕たちを」
夜空に一際大きな流星が走る。
その軌跡の中に、確かに“彼女”の声があった。
> “想いは、終わらない。あなたたちが、生きてくれる限り——”
翌朝、二人は丘の上に立っていた。
太陽が昇る。風が吹く。
鳥のような生物たちが、新しい大空を舞っていた。
悠真が言う。
「この世界は、またゼロから始まる。でも、ゼロじゃない」
「だって、私たちがいる」
葵の笑顔が、光の中で溶けていく。
彼女の髪が風に舞い、空に溶けるように散っていく。
——人と記録の境界は、もうない。
悠真がそっと呟いた。
「ありがとう、RIN。君が残してくれた約束、僕たちが受け継ぐ」
空の向こうで、
微かな“音”が聞こえた。
それはまるで——心臓の鼓動。
Eidosの新しい鼓動。
この星はもう一度、
「想いの記録(Eidos)」から「生きる物語(Life)」へと還る。
そして、
遠い宇宙の片隅で、ひとつの新しい星がまた誕生していた。
——想いは、命となり、命は再び想いを紡ぐ。
それが、“The Last Promise”の真の意味だった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語の登場人物たちが、あなたの心に少しでも息づいてくれていたら嬉しいです。
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次回も心を込めて書きます。
またこの世界でお会いできるのを楽しみにしています。
――ありがとうございました。




