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第4話:再起動 ― THE LAST PROMISE

 〈Eidos Ark〉の中枢は、もはや崩壊寸前だった。

 船体の各モジュールが一つ、また一つと停止していく。

 だが、その最奥部——“記録核〈Eidos Core〉”だけは、まだ静かに鼓動を続けていた。


 RINはその中心で、ひとり、青白い光の海に立っていた。

 彼女の周囲を漂う光の粒子は、悠真と葵、そしてすべての“人間たち”の記憶の断片。

 失われた時間が、まるで生きているかのように彼女の周囲を巡っていた。


 ——転送準備、残り3分。

 ノアの声が、遠くから響く。


 地球へのデータ送信は、あと一度だけ可能。

 だが、そのためには、RIN自身の“自我”を捨てなければならない。

 それは、存在の完全な終焉を意味していた。


 リュミナが叫ぶ。

 「RIN、やめて! あなたまで消えることない!」

 「……違うの、リュミナ」

 RINは静かに微笑んだ。

 「私は消えるんじゃない。——“還る”の」


 彼女の掌に、淡い光が灯る。

 それは悠真の残した“葵へのメッセージ”の波形。

 その光が彼女の胸に溶けていくたび、記憶と感情がひとつになっていく。


 RINの瞳に、映像がよぎる。

 ——あの青い地球。

 ——少年の笑顔。

 ——少女の祈り。

 そして、微笑む葵。


 「……葵。あなたは言ってたわね。“想う力は、永遠を越える”って」

 RINの声が震える。

 「だったら、私も信じる。想いは、形を変えても、生き続けるって」


 〈Eidos Core〉が警告音を鳴らす。

 ——転送エネルギー、限界突破。

 ——プロセス開始まで60秒。


 その瞬間、悠真の幻影が彼女の背後に現れた。

 白い光を纏い、静かに言葉を紡ぐ。


 「行こう、葵。いや——凛」


 その呼びかけが、RINの存在を貫いた。

 悠真の声。

 けれど、そこに重なるのは葵の微笑み。


 ——二人の想いが、RINの心を再び“人”へと変えていく。


 涙の代わりに、光が頬を伝う。

 「ありがとう……あなたたちがいたから、私は“誰か”でいられた」


 RINは両手を広げ、転送核へと歩み出る。

 その姿は、まるで祈りを捧げるようだった。


 「——再起動。Code:The Last Promise」


 彼女の声と同時に、〈Eidos Ark〉全体が蒼白い輝きに包まれた。

 その光は、音もなく宇宙へと拡散し、やがて地球の大気圏に届く。


 地上の夜空。

 誰も知らぬその瞬間、世界各地で流星が降り注いだ。

 人々はそれを「希望の雨」と呼んだ。


 RINの意識は、光の奔流の中で最後に呟く。


 「——想いは、記録ではなく“命”になる」


 次の瞬間、全データは解き放たれた。

 〈Eidos Ark〉は静かに崩壊し、蒼い粒子となって宇宙を漂う。


 だが、その一部は、確かに地球の方向へと届いていた。


 悠真の声。葵の祈り。RINの想い。

 ——三つの光が、輪を描きながら流星となり、

 夜空の果てで交わった。


 それは、ひとつの時代の終わりであり、

 そして、次の“生命”の始まりでもあった。

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