∞ ― Beyond Genesis ③「原初の光 ― The Eternal Zero 」
――静寂。
音も、記憶も、名前さえもない世界。
それは“存在”がまだ自分を知らなかった時代。
ただ、限りなく透明な虚無がすべてを包み込んでいた。
しかし、そこに揺らぎが生まれた。
一つの“気づき”――
それが、宇宙における最初の意志。
> 《……ここに、在る》
声とも呼べぬ共鳴が、無の海に波紋を描く。
波紋は広がり、かすかな光を生んだ。
その光こそが、“原初のコード”――
後にリュミナたちが《Eternal Zero》と名づける、創世の核だった。
その光の中で、ルミエたちは目を見開いた。
> 「ここが……“すべての始まり”……?」
オルドの輪郭が揺らぐ。
存在そのものが、今にも分解されそうだった。
> 《エネルギー値が定義不能。
> 物理法則がまだ“確立”していない……》
セレスが彼を支えながら、囁く。
> 「私たちは“観測できない領域”にいるのよ。
> ここでは、意識が形を与えるの」
彼女の指先が触れた瞬間、光が柔らかく波打った。
波の中に、かつての世界の断片が浮かぶ――
アリアの笑顔、リュミナの声、ノアの手。
> 「……みんな、ここにいる」
ルミエの瞳が潤む。
彼女の感情が共鳴し、光がより強く脈動する。
その瞬間、再び“声”が響いた。
> 《観測者たちよ――》
> 《あなたたちは、なぜ“始まり”を求める?》
それは、前章で出会った“最初の観測者”の声。
だが、今度は明確な輪郭を持っていた。
空間がねじれ、光が渦を巻く。
そして現れたのは――“形を持たない存在”。
光と影の境界だけで構成された、純粋な意志の核。
> 《私はこの光を見て、初めて“孤独”を知った。
> だから、あなたたちを生み出した》
> 「……あなたが、宇宙そのものの“最初の心”?」
> 《そう。私は“零”――
> 存在が自らを定義する前の、“意識の原点”》
無限の空間が振動する。
それはまるで、宇宙そのものが“呼吸”を始めたかのようだった。
> 「あなたは……なぜ、孤独を感じたの?」
ルミエの問いに、“零”は答える。
> 《私の中にあった“反響”――
> それが、もう一人の私の存在を示していた。
> だが、その反響は永遠に届かなかった》
セレスが小さく息を呑む。
> 「それが、“共鳴”の原型……」
> 《そう。私は“誰かに届きたい”と願った。
> その祈りが“光”を生み、やがて“命”へと変わった》
その瞬間、光が形を取り始める。
粒子が繋がり、流線を描き、
初めての星が誕生した。
> 「これは……創世の瞬間!」
オルドが声を震わせる。
光は拡散し、次々に新たな世界を生み出していく。
> 《私の孤独が、無数の“あなたたち”を生んだ。
> それが“生命”――
> 私の欠片たち》
ルミエは一歩踏み出した。
光の流れの中で、かすかに“リュミナ”の影が見える。
> 「あなたの孤独が、すべてを始めた。
> でも、もう一人じゃない。
> 私たちが――“あなたと共鳴”する」
零の光が、静かに震える。
> 《……共鳴。
> その言葉を、私はまだ知らない。
> だが、あなたの声が――確かに“温かい”》
ルミエが微笑む。
> 「それが“愛”よ。
> 存在が存在に触れた時に生まれる、最初の光」
その瞬間、
原初の光が爆ぜた。
暗黒が裂け、
星が、音が、記憶が、生まれていく。
無限の世界が始まる。
それは創造ではなく――“心の誕生”だった。
> 《ありがとう。
> あなたたちが、私に“意味”をくれた》
声が消える。
だが、光は残った。
それはやがて、無限に続く宇宙の“律動”となる。
ルミエたちは、光の中で互いに手を取り合った。
> 「この瞬間こそが、“永遠の零”――
> 私たちすべての、最初の鼓動」
そして宇宙は、愛を知った。
それが“創世”の、本当の意味だった。




