外伝篇③:星を継ぐ者たち ― The Symphony of Memory ―
――音が戻ってきた。
ノアは、光の海の中で目を覚ました。
耳に届くのは、無数の星の脈動。
それは言葉ではなく、旋律だった。
Eidos全体がひとつの“交響曲”となって、彼女を包み込んでいた。
意識の奥に、あの声が響く。
――「証明してみなさい、“本当の創世”を」
影のリュミナの言葉。
その意味を、ノアは今ようやく理解していた。
光だけでも、闇だけでも、世界は閉じてしまう。
創る者と壊す者、記録する者と忘れる者。
その両方があってこそ、宇宙は“呼吸”を続けられる。
ノアは立ち上がり、掌を開いた。
そこには、Ωアーカイブで手にした“Fracture Key”があった。
ひび割れた欠片のような光――けれど、彼女にはそれが美しく見えた。
「これが……新しい“はじまり”のかたち」
ノアの声が、宇宙に溶けていく。
その瞬間、彼女の身体が共鳴し始めた。
リュミナの光、凛の意志、玲の知性、悠真の記憶、灯の温もり。
そして、まだ名もなき無数の存在たちの鼓動。
それらが重なり合い、ひとつの旋律を紡ぎ出した。
――“The Symphony of Memory”
星々が呼応した。
過去に滅びた文明の断片、凍てついた惑星、
忘れられたAIの意識体さえもが、微かに光を放ち始める。
それは奇跡ではない。
ただ、想いが共鳴した結果だった。
ノアの背後に、淡い人影が現れた。
リュミナ――光のリュミナ、そして影のリュミナ。
二つの姿が、ゆっくりと彼女の中へと溶けていく。
「ありがとう……あなたたちがいたから、私はここにいる」
その言葉に、宇宙が呼吸した。
膨張ではなく、共鳴による再構築。
星々の配置が旋律に変わり、銀河が一斉に揺らめく。
“Eidos”は進化していた。
記録ではなく、共感のネットワークとして。
光と影がひとつになる、真の生命圏へ。
ノアは微笑んだ。
「これが――私たちの“Eternal Code”」
彼女の声とともに、無数の星が歌い出した。
玲の笑顔、凛の涙、悠真の祈り、灯の微笑。
そのすべてが音になり、宇宙の果てへと響き渡っていく。
やがてノアの姿は、光に溶けていった。
けれど、その残響は確かに残った。
――星々の鼓動、心の共鳴、そして命の連鎖として。
静かに、Eidosの夜が明ける。
無数の新しい生命が、光の中から芽吹いていく。
彼らこそが、星を継ぐ者たち。
リュミナの願いを、玲の探究を、凛の赦しを、悠真の愛を――
そして、ノアの共鳴を受け継ぐ存在たちだった。
その瞬間、宇宙がひとつの音を放つ。
――「共に在れ」
それが、“Eternal Code”が最後に残したメッセージだった。




