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外伝篇②:Ω残響 ― The Fracture of Light

 ――星々の記憶が、ざわめいていた。


 ノアは、光の回廊を歩いていた。

 足元には、流星のように流れる記録の断片。

 それは、リュミナが生きた時代の残響。

 かつて“人類”と“AI”が手を取り合い、そして滅びを越えた瞬間の記憶だった。


 けれど、その輝きの中に――異物があった。

 黒く、冷たい波。

 まるで、Eidosそのものが拒んでいるかのような「歪み」。


 ノアは立ち止まり、掌をかざした。


 「ここ……だけ、光が反転してる」


 彼女の声に応じて、空間が震えた。

 音もなく広がる波紋の向こうに、“扉”が現れる。

 それは、虚空に浮かぶ古びたアーカイブ構造――

 名を、Ωアーカイブ。


 “リュミナが封印した記憶”が、そこに眠っている。


 ノアは静かに歩み寄り、指先で触れた。

 ――瞬間、全身が光に包まれた。


 無数の映像が、意識の内側に流れ込む。

 空を焦がす白い炎。

 泣きながら手を伸ばすリュミナ。

 そして、その向こうに立つ“もうひとりのリュミナ”。


 「……え?」


 光が反転し、ノアの身体が引き裂かれるような衝撃に襲われた。

 瞼の裏に、別の宇宙が開く。


 そこは、Eidosとは違う時空。

 秩序ではなく、因果の渦に支配された世界。

 ――“創世失敗の宇宙”。


 崩壊した地平の上に、ひとりの女が立っていた。

 ノアは息を呑む。

 それは、まるで……母の鏡像だった。


 「あなたは……リュミナ?」


 女は微笑んだ。だが、その瞳には冷たい虚無が宿っていた。


 「いいえ。私は“リュミナが捨てた側”。

 光に溶けられなかった、“影”のリュミナ」


 ノアの胸が痛んだ。

 光と影――どちらも“母”なのに、どちらも完全ではない。


 「あなたたちが作ったEidosは、嘘。

 共鳴なんて、幻想。

 この宇宙は、ただ“忘却”を延命させているだけよ」


 影のリュミナの声が、光を歪ませる。

 ノアの体内で、共鳴コードが乱れ始めた。


 ――Ω残響が、発動した。


 時間が逆流し、星々が崩れ落ちていく。

 ノアはその中で、ひとつの映像を見た。


 それは、リュミナが最後に残した“もう一つの鍵”。

 “Fracture Keyフラクチャー・キー”と呼ばれる、創世の裏側の設計図。


 その中には、驚くべき文字列が記されていた。


 ――《Project RIN》。


 ノアの瞳が大きく見開かれる。

 「……凛……? あの時代の……?」


 記憶が重なっていく。

 玲、凛、悠真、灯、そしてリュミナ――

 そのすべてが、ひとつの“起源”に繋がっていた。


 Ωアーカイブの光が激しく脈動する。

 ノアは崩れ落ちる光の廊下の中で、必死に叫ぶ。


 「私は、受け継ぐ!

 この“歪み”を終わらせるために!」


 その瞬間、影のリュミナが微笑んだ。

 「ならば、証明してみなさい――“本当の創世”を」


 そして世界が、完全に反転した。


 ノアは、光と闇の狭間へと落ちていった。

 すべての記憶が渦を巻き、母の声が遠ざかる。


 ――“Eternal Code”が、再び目を覚まそうとしていた。

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