黎明の記録①「瓶の中の未来」
この物語を開いてくださり、ありがとうございます。
ここに描かれるのは、ひとりの小さな選択が、やがて世界を変えるほどの軌跡へと繋がっていく物語です。
運命に抗う者。
信じる力を見失いかけた者。
そして、希望をもう一度見つけようとする者。
彼らが紡ぐ“想い”の行方を、どうか見届けてください。
ほんの少しでも、あなたの心に残る瞬間がありますように。
それでは、物語の扉を開きましょう――。
朝の浜辺に、ひとりの少女が立っていた。
風にほどける長い黒髪、瞳は淡い琥珀色。
名を、灯といった。
彼女は波打ち際で足を止める。
夜明け前の光が、水平線の向こうでかすかに揺れていた。
砂の上に、何かが転がっている。
それは、潮と時を越えたガラス瓶。
古びていながらも、どこか澄んだ輝きを保っていた。
中には、一枚の手紙。
――そして、封筒の表には、英語でこう書かれていた。
> 「To the one who will be born from light.」
灯は、その文字を指先でなぞる。
「……光から、生まれる……?」
胸の奥に、なぜか懐かしい痛みが走った。
彼女は瓶を抱え、家へと走る。
波が、まるで彼女を押し出すように背中を押した。
古びた手紙を乾かし、灯は慎重に開いた。
筆跡は流れるように柔らかく、時間を超えてもなお、あたたかい。
> 「親愛なる、未来のあなたへ……」
手紙を読み進めるうちに、灯の頬を涙が伝った。
“失うことは、始まり”――
その言葉が、まるで心の奥を知っているかのように響く。
彼女の父は幼いころに海で行方不明になり、
母は長い病の末に亡くなった。
残された灯にとって、この手紙は、
“世界のどこかから届いた、生きる理由”のように思えた。
そして、最後に記された署名。
> 「――玲より」
灯はその名を口にしてみた。
「……れい……」
どこかで聞いたような響き。
それは、夢の中で幾度も呼ばれた名前だった。
玲という人物を探すため、灯は街の図書館を訪れた。
古い新聞のデジタルアーカイブをめくる。
やがて、一枚の写真に目が留まる。
――海辺でペンダントを握る女性。
見出しにはこうあった。
> 「行方不明となっていた女性、遺留品だけが発見される」
その名は、「玲・アサギリ」。
灯は息をのんだ。
記事の日付は、十五年前。
奇しくも、自分が生まれた年だった。
心臓が強く打つ。
まるで何かが呼び覚まされるように。
“――零から始まる、すべての輪廻が、あなたの未来へと続いていますように。”
その一文が、再び脳裏をよぎる。
灯は拳を握り、心の中でつぶやいた。
「……あなたの未来を、探してみせる。」
夜、灯は夢を見た。
波の向こうに、光の道が伸びている。
その先に、ひとりの女性が立っていた。
長い髪、柔らかな微笑み。
彼女は静かに言った。
「ありがとう。
あなたが、この手紙を見つけてくれたから、
ようやく私たちは、光に帰れる。」
灯は問いかける。
「あなたが……玲?」
女性はうなずいた。
そして、灯の胸に手を当てる。
「私の想いは、ここにいる。
でも――もう、あなたの時代のものだよ。」
光があふれ、海が白く染まる。
玲の声が風に溶けるように消えていった。
目を覚ますと、朝の光が差し込んでいた。
机の上には、昨夜までの瓶と手紙。
しかし――ペンダントだけが、手元に残っていた。
灯はペンダントを握りしめ、海へ向かった。
波は穏やかで、空はまぶしいほどの青。
彼女は呟く。
「――ありがとう、玲。
私、ちゃんと生きていく。
あなたがくれた“光”を、次の誰かに渡すために。」
風が吹き、ペンダントが光を放つ。
その輝きは、まるで“零”が再び始まる合図のようだった。
――すべての物語は、終わりではなく“記録”になる。
そしてその記録が、新しい命の黎明を照らしていく。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語の登場人物たちが、あなたの心に少しでも息づいてくれていたら嬉しいです。
執筆を続ける力は、読んでくださる皆さんの応援と感想に支えられています。
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次回も心を込めて書きます。
またこの世界でお会いできるのを楽しみにしています。
――ありがとうございました。




