表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

19話 逆名の塔

ここまでのあらすじ

星碑争奪戦・第四潮の攻防でユナは残響の順序戦を打ち破り、交点Cを奪取した。

その直後、塔が「逆名ぎゃくめい」という特別試験を告知。

それは、ユナがかつて与えた“名”を塔が逆に呼び戻せるかどうかを試す、記憶と名の戦いだった――。

 夜空に鐘のような音が響き、塔の上空の裂け目が淡く光った。

 仮面の女が一本の指を掲げた瞬間、ユナの足元がぐにゃりと歪み、視界が一気に暗転する。


 次に目を開けたとき、そこは静寂の世界だった。

 床一面が薄い水面で覆われ、波紋一つないまま永遠に続いている。

 空には星が一つもなく、ぽっかりと空白の穴だけが浮かんでいた。

 風も音もない。

 あるのは、自分の心臓の鼓動と――かすかな“声の残響”。


(……ここは、私の……記憶の隅……)


 塔の内部は名付け子の記憶が投影される空間。

 ユナの胸に、失った“声”の痛みがじんわりと広がっていく。

 妹の声と混ざった、もっと前の記憶の気配――。


《特別試験「逆名」開始》

《対象名:第一名付け記録》

《制限時間:三潮(約15分)》

《拍頭と名を奪われた場合、失格》


 塔の奥から、幼い少女の声が響いた。

 歪みながらも、懐かしい響き――。

 最初に星の柱へ名を刻んだ、あの夜の声だった。


「……ナ……ユ……」


(来た……!)


 塔が“拍頭”を奪いにくる。

 ユナは深く息を吸い、手を胸に当て、声を放った。


此所ここに――名を刻む!」


 水面が波紋を広げ、拍がユナの側へ返ってくる。

 塔が一拍譲った。



 だが、その静寂を裂いて――足元の水面から白いテープが這い上がる。

 灰色の瞳が覗いた。

 残響だった。


「やっぱり来たね。試験って、退屈しなくて好きなんだ」

 彼は塔とユナの“間”に導線を伸ばし、声を滑り込ませる。


「“これ”、って言いたくなるだろ?」


 塔の内部では、外で設定した禁名はリセットされる。

 つまり、ここでは生の順序戦。

 ユナの舌が一瞬揺らぐが、彼女は踏みとどまる。


「ここは私の記憶。……あなたの導線には、渡さない」


 残響は笑い、テープを水面に張り巡らせた。

 空間全体が彼の“譜面”に書き換えられていく。


 塔の声が再び響いた。

 今度は、名前の輪郭が少しはっきりしている。


「……リ……タ……」


 心臓が跳ねる。

 あの夜、星が降る中で震えながら名を刻んだ――リタ。

 ユナにとって、初めて「名を与える」という行為をした子だった。


 残響がその“間”に割って入る。

「君、あのとき一瞬ためらったよね。その“間”を僕がもらう」


 テープが水面を這い、ユナの声を封じようとする。

 拍頭が傾きかけた、その瞬間――


「――在れ(あれ)!」


 ユナの声が空間を切り裂き、拍が再び彼女へ戻る。

 残響の目が細められた。「……やるね」


 塔の声が、三度。

 今度は明確な音で名を呼ぶ。


「――リタ」


 ユナは目を閉じ、胸に手を当てた。

 あのときの光、手のひらの温度、彼女の笑顔。

 すべてが一瞬にして蘇る。


「――リタ!」


 水面が一気に光を放ち、空白の空に星が一粒、戻っていく。

 記憶の奥で、少女の声が小さく囁いた。


「……ユナ、ありがと……」



《逆名試験:合格》

《権限拡張:遠隔回収権 付与》

《記憶欠損:追加なし》


 残響は舌打ちをしてテープを巻き取り、薄い影となって消えていった。

 塔の空間がほどけ、夜の街に戻る。


 カイトが駆け寄る。「どうだった!」

 ユナは息を吐いて、少しだけ笑った。


「……“名”が、戻ってきた」


逆名ぎゃくめい:塔が名付け子の与えた名を逆に呼び戻せるかを試す特別試験。成功で権能拡張、失敗で記憶の欠損が拡大。

拍頭はくとう:会話や呼びかけの最初の拍。これを奪われると呼び戻しは成立しない。

・残響の妨害:塔とユナの間に会話導線を割り込み、拍頭を先取しようとする戦法。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ