表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

8話 星狩りの街(シティ・オブ・スターハント)

 ――目を開けた瞬間、空が割れていた。


 ひび割れた夜空の隙間から、星が一滴ずつ、まるで水滴のように落ちている。

 地面に触れると、星は“硬貨”のような形に変わり、カランと乾いた音を立てた。


「……ここは……どこ……?」


 ユナはゆっくりと身体を起こした。

 周囲は見知らぬ街だった。石畳の通りに古びた街灯が並び、空には星図のような線が浮かんでいる。しかし、星冠城で見たものとはまるで違う。

 建物の上には鉄の看板が掲げられ、そこにはこう刻まれていた。


『観測外管理区画 第3星域 登録都市:スターハント』


「観測……外?」

 ユナは呟いた瞬間、胸の奥に鈍い痛みが走る。

 観測の核で差し出した“記憶”――その一部がまだ戻っていない。脳裏には、ぼんやりとした光の断片しか浮かばない。


 背中の断星銃はそのまま。竜の姿は……ない。

 カイも、セレナも、ここにはいなかった。


「……一人、か」


 ひとりごとが空気に溶ける。

 しかし、この街は妙に“静か”だ。まるで全員がどこかで息をひそめているような、張りつめた空気が漂っていた。


 ユナが歩き出したその時だった。

 頭上のスピーカーから、無機質な声が響き渡る。


《新規来訪者を確認。観測外居住権の仮発行を開始します》

《登録者名:ユナ。階級:空白ブランク・スター

《現在時刻より2時間後、“第一星狩りファースト・ハント”が開始されます》

《生存のため、星を確保してください》


「……なに、それ……?」


 空白ブランク・スター――あの時、観測を書き換えた証。

 でも、それがこの街ではまるで「階級の一種」として認識されている。


 視界の端で、通りの角にいた人々がざわついた。

 フードをかぶった青年が小声で呟く。


「ブランクが……来た……本物だ」

「ハントに混ざるのか?あいつ……」

「いや、狙われるに決まってる。ブランクは“特別な星”を持ってるって……」


 視線が一斉にユナに集まる。敵意と好奇心、両方が入り混じった空気だった。

 ユナはとっさに断星銃に手を添える。だが、誰も攻撃はしてこない。むしろ“ルール”を守っているように見えた。


(……この街、普通じゃない。何か“仕組み”がある)


 その時、目の前の広場にある大きな時計塔の壁が、まるでスクリーンのように光り始めた。

 光の中に現れたのは、仮面をつけた女性の姿だった。顔は星型の仮面で隠され、声は加工されている。


「ようこそ、新参者たち。ここは“観測の外”、星狩りの街。

 ここでは、生きるためには“星”を奪い合う。それが唯一のルールよ」


 街全体がしんと静まりかえる。


「2時間後、第一星狩り戦が始まる。

 星を奪えなければ、観測権を失い、この街から――消える」


 仮面の女は手を広げ、空から落ちていた星を拾い上げると、それを指先で弾いた。

 星は空中で砕け、まるで命が消えるように消滅した。


「ブランク・スター、ユナ。あなたは特別よ。

 この街では、“誰もがあなたを狙う理由”を持っている」


 女が笑った。ぞくりとするほど冷たい声だった。


「……面白そうな場所じゃないか」


 背後から声がした。

 振り返ると、肩に傷跡を持つ青年が立っていた。ユナと同じ年頃だが、目が鋭い。腰には見たことのない形の銃。星を組み合わせたような装飾が施されている。


「名前はカイト。ここじゃ“星喰い(スターディーラー)”って呼ばれてる」

「……カイト?」

「お前、初めてだろ。“星狩り戦”、説明してやるよ。逃げてもいいけど……その場合は、誰かの星になって終わりだ」


 カイトは軽く笑いながら、星の硬貨を指先で弾いた。

 その音は、不気味なほどよく響いた。


 空はひび割れたまま、星が降り続けている。

 2時間後、この街で始まるのは「狩り」。

 ユナは無意識に、断星銃の冷たい感触を確かめた。


(……また、戦いが始まる)


 だが、これは前のような“外敵”との戦いではない。

 人と人、星と星、そして新しい階級を巡る、もうひとつの世界のゲームだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ