大好きな絵ではなかったものの
塵になったらどうなるのかと思ってきたが、昔観た絵の中にいた。
暗い赤の荒野に、黒く塗り潰された姿でたたずむ男のいる、絵だ。男の背景にある、地平線を表す点の一つが、人間で、しかも己だったらしい。
閉塞感はなかった。自由に動けて、空腹等の苦痛もない。本来なら今、塵となっているのだから当然だが。
記憶に刻まれていた絵であるだけに、赤の色合いも、どう動いても視界の端に入る男も気にならない。逆に穏やかな気持ちで存在している。
その男に向かって歩いても、全く距離が縮む様子がない、という事は除いて。
点である身には男に近付く事は許されないのだろうか。
諦めて、歩いたり寝転がったり飛んでみたりして過ごす。
しばらくして悟った。
あの男もまた点で赤の荒野で、己もまたあの男で赤の荒野なのだと。