第5話.懐かしい夢と蚊に刺され
夕暮れの時間、友達と遊んだ帰りに近所の公園でおねえちゃんがブランコに座って泣いているのを見つけた。ぼくは側に寄ってなんで泣いてるのか聞く。
「おねえちゃんどうしたの?」
「えぇぇぇん、ゆーーちゃんわたしぃわたしぃ、えぇぇん」
ぼくはどうすれば良いか分からなかった。
だから、いつもぼくがしてもらっているのと同じようにおねえちゃんの頭を撫でることにした。
「おねえちゃん、泣かないで」
「ゆーちゃんゆーちゃん、えぇぇぇん」
おねえちゃんが泣き止むまでぼくは髪を撫で続けた。
◇ ◆ ◇
懐かしい夢を見た気がする。
目を覚ますと隣に寝ていたはずの姉さんはすでにいなくなっていた。
「そう言えば、今日はバイトがあるって言ってたな」
バイトに行くためにちゃんと起きたのだろう。さすが姉さんだと感心し、俺は身体を起こす。壁にかかった時計を確認すると10時を指している。
「まじか」
思っていた以上に寝ていた。でも、そのおかげで頭も身体もスッキリしている。
「とりあえず、着替えて顔を洗いに行くか」
身支度を済ませる為、ベッドから起きた。
◇ ◇ ◇
着替えを済ませてリビングに行くと母さんがソファで休んでいた。姉さんはバイトでいないことは知っていたが、父さんもいない。決まった休みのない職業なので恐らく仕事だろう。
俺は一人でゆっくり休む母さんに挨拶する。
「おはよう」
「あらっ、おはよう。随分寝てたわね」
「うん、昨日の夜ちょっと寝れなくて寝た時間が遅かくなったかも」
「まぁ、あの話を聞いた後だったもんね。寝れなくても仕方がないわよ」
『あの話』
姉さんとは血が繋がっていない義理の姉弟という事。
母さんはそのことを指して『あの話』と言ったのだろう。ただ、俺の頭にはそれとは別に昨夜の部屋での事が思い浮かんだ。
「あっあぁ、そうだよね。しょうがないよね」
気恥ずかしくなるが母さんの前ということもあり、なんとか平静を装う。しかし、母さんは俺のことをあまり気にしてないようなので少し安心できる。
顔を洗ったり、歯磨きをしようと洗面所に向かうとリビングから母さんの声が聞こえる。
「そうだ、あんたご飯どうするの?」
「お腹は空いてるけどお昼も近いし、軽くにしとこうかなって思ってる」
「分かったわ。準備しておくから終わったら来なさいよ〜」
「いいよ、自分でやるから」
「あんたはまた、そんなこと言って」
先程までリビングにいたはずの母さんの声が台所から聞こえる。
「昨日も言ったけど、こういう時は甘えておきなさい」
言われてしまった。
「分かったよ。いつもありがとう」
俺はそう言うと水を出して顔を洗った。
◇ ◇ ◇
一通りの支度が終わり戻ると、テーブルの上にはパン半切れとスープが置いてあった。
母さんが手を洗いながら聞いてくる。
「少しってこのくらいで良いかしら?」
「うん、バッチリだよ。本当にありがとう」
そう伝えるとさっそく食べることにする。
「いただきます」
「はぁーい」
手を洗い終えた母さんが返事をしながら後ろを通っていく。
ソファに戻りテレビを見始めた母さんが「そういえば」と俺に話しかけてきた。
「あんた、首の後ろ赤くなっていたわよ。蚊に刺されたのかしらねぇ」
「首の後ろ?あっ」
『ゆーちゃんが誰のものか分かるようにマーキングしなきゃ』
あの時の姉さんの声、唇の触感、キスマークをつけられる感覚が思い出されて、身体中が熱くなる。
母さんは「いやだわぁ〜もう蚊が飛んでるのかしら。蚊取り線香買って来なくっちゃ」と言っている。俺はうなじのキスマークに意識が向き、食事の手が止まる。
不思議に思ったのか母さんが「どうしたの?」と聞いてくる。「なんでもない」と答え、なんとも言えない気まずさを抱えながら食事を再開する。
◇ ◇ ◇
軽い食事を終えると、自分の部屋に戻ってきた。
「宿題の前に、首のところどうにかしないとな」
キスマークが消えるまで、バレないように上手く隠さないと面倒な事になりそうな予感がした。コンシーラーやファンデーションを使うのも考えたが母さんに蚊に刺されと勘違いされているので悪手だと思い、絆創膏で隠すことにした。
「上手く貼れたか?」
昨日の感触を思い出しながら絆創膏を貼る。たぶん貼れただろうと思い、宿題を終わらせるため机に向かう。
どうも、オレレモンです。
第5話、いかがだっただしょうか。
1〜4話がだいぶ暴れてたので少し平和な回になりました。
次話はたぶん暴れるのでよろしくお願いします。