表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

第14話. 幼馴染と部屋

 学校を出た俺たちは歩いて家に帰る。徒歩10分も掛からないくらいの距離なので、部活をしない俺は運動のためにも歩く事にしているからだ。夏芽も同じ理由で歩いているらしい。

 色々と喋りながら歩いていたのであっという間に夏芽の家の前まで来てしまう。ちなみに俺の家はその2軒隣だ。


「もう着いちまったな。今日はありがとう、楽しかった」


「私の方こそ、いきなりだったのにありがとう」


「じゃあ行くわ。また誘ってくれよな」


「・・うん」

 

 俺は自分の家を目指すため夏芽に背を向けて歩き出す。だが、すぐに夏芽に手を握られる。


「どうした?」


「ゆき、あのね・・あのね!」


 夏芽が話すのを待つが口を噤んでしまい、下を向いてしまう。


「夏芽、何か言いたいのか?」


 下を向いたまま頷く。昔から何か話したい事があるとこうして手を握ってくる。だから、今回もすぐに分かった。俺は夏芽が話すのを待つことにした。


「・・部屋に行きたい」


 夏芽がそう呟いたのは少し経ってからの事だった。


「俺の部屋か?良いけど、散らかってても文句言うなよ」


 そう言うと夏芽は顔を上げる。不安そうな顔をしながら俺を見て「ほんと?」と聞いてくる。


「本当だよ。こんな事で別に嘘は言わん」


「ありがとう。じゃあ私、準備したら行くから先に行ってて」


 そう言うと手を離して行ってしまう。玄関まで行くと振り返り、「本当にありがとう」とドアを閉める。さっきは「散らかってても文句言うなよ」と言ったが流石に部屋を少し片付けておく必要があると思い、言われた通り先に戻ることにした。


● ● ●


 私は部屋に戻るとカバンを置き、彼の手を握った自分の手を胸に抱いてベッドに倒れる。心臓がドキドキしてるのがよく分かる。彼はなかなか話し出さない私の手を振り払うことなく話し始めるまで待っててくれた。昔からそうだった。私が話し出すまでずっと待っててくれた。しかも安心させようと握る手に力を込めて待っててくれた。その優しいに甘えてしまう。


「・・部屋に行きたい」


私はそう言った。彼は「良い」と言ってくれた。


(どうしよう、彼の事がますます好きになっちゃう)

  

 ただ、彼の事を考えるとあの人の顔がチラつく。彼へ向ける視線、公園でのこと、全てが私にチクチク刺さる。


(さっさと好きって言っちゃえよ。家族となんてありえない、お姉さんじゃなくて私を選んでって)

 

 心の中で誰かがそう言ってくる。


「うるさい」


(盗られちゃっても知らないよ)


「うるさい!!」


 自分以外いないのにそう叫んでしまう。


「分かってる。分かってるからやめてよ」

 

 私は身体を起こし、さっきまでいた"誰か"に向かって言う。


「今日で全部決めるから黙ってて」


 私は待たせている彼の所に向かう。


● ● ●


 夏芽が来たのは俺が戻ってから少し経ってからだった。リビングでくつろいでいた母さんには夏芽が来ることを伝えてあったのでインターフォンが鳴ったタイミングで呼ばれる。玄関で出迎えると昔と部屋の場所が変わってないことを伝えて先に行っててもらう。俺は飲み物と菓子を準備してから部屋に向かう。途中で母さんに「あんたも隅に置けないわねぇ」と言われたが何のことかよく分からなかった。

 部屋の前まで来ると少し緊張する。中にいるのはいつも話している夏芽なんだからそんな必要はないのに何故かドアノブに手を掛けるのを躊躇ってしまう。


「待たせるのは失礼だし」


 そう自分に言い聞かせ、いざドアを開ける。


「すまん、少し待たせた」


そこには俺のベッドに横になっている夏芽がいた。しかも枕に顔を押し付けている。俺はゆっくりドアを閉め外に出る。


(何かの見間違いだったのかもしれない。そうだ、きっとそうだ)


 確かめるためもう一度ドアを開けて入る。今度はベッドに横になっておらず、顔は下を向いているがベッドに座っている。


(ほら、見間違いじゃん)


 自分に対してそう言うと「すまん、すまん。待たせちゃったな。何の菓子にしようか悩んでたら時間掛かっちゃった」と言いながら机に飲み物とお菓子を置く。夏芽は「ううん、大丈夫。ありがとう」と返してくれる。


「「・・・」」


 沈黙が流れる。何か言って空気を変えたかったが言葉が出てこない。数分がそのまま流れ、俺はやっと口を開くことができる。


「飲み物、お茶で良かったか?」


 なんじゃそれゃあって自分でも思う。でも、良い言葉が出てこなかったのだから仕方がない。夏芽は「大丈夫、ありがとう」と言うだけで動かない。「帰り、少し暑かったしお茶飲めよ?」や「ここの菓子、美味しくて好きなんだ」と話しかけるが、下を向いたまま「うん、ありがとう」「そうなんだ」と返すだけだ。俺も掛ける言葉を失い、黙ってしまう。

 夏芽が話したのはそれから数分が経ってからだった。


「さっきの見た?」

 

 その一言だけだった。俺は「何の事だ?見てないよ」と返すつもりだった。だけど、夏芽の顔を見るとそんな事言えなかった。同じ表情をした人を最近見たから。


「見た。ごめん」


 俺はそう返すと夏芽は「ごめん。やっぱ帰る」と言い、立ち上がる。

 ただの直感だった。ここで帰らせるともう話せない気がして夏芽の手を掴んでしまう。


「離して、離してよ!」

 

 夏芽は振りほどこうとしてくるが、離す訳にはいかずより手に力を込めて「離さない」と返す。


「お願い、帰らせて!もう嫌なの」


「夏芽、まずは落ち着こう?な?」


「嫌、嫌嫌嫌嫌っ!」


「夏芽」


「離して、帰らせて!じゃないと」


 そこまで言うと手が止まり、逆にがっしり俺の両手を掴んでくる。


「もういい、知らない。ゆきが悪いんだから。もうどうなっても知らない」


 そして、夏芽に体重をかけられ俺はベッドに押し倒される。だが、何が起こったのか俺は分かっていない。


「ゆきが悪いんだからね?そんなに優しいから。私を帰らせれば良かったのに」


「それは、あんな顔したお前を帰らせられるかよ」


「ふふふっやっぱり優しいね、ゆき」


 さっきまでと雰囲気が全然違う。俺の知らない夏芽がそこにはいた。

どうも、オレレモンです。

今話はいかがだったでしょうか?

もう少し夏芽パート続きます!

春美さんはしばし待たれよ!!


次話もどうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ