第2話 DM即転生。詐欺師、LINEに現る
LINE IDを送信してから秒で通知が鳴った。
名前は『Chocolate』。
アイコンは、やたらデカい目の美少女アニメ風キャラ。
チョコレート?……まあ、甘い罠ってことか?
と思いながら、通知をタップ。
そこには、既視感のある自己紹介が。
『ここでお会いできて嬉しいです。私は林静です。どうぞよろしくお願いします!』
うん、君は……Payton Brockじゃなかったっけ?
DMからの即LINE転生、仕事早すぎるぞ。
だが、俺は律儀に返した。
「よろしくお願いします」
即レスがくる。
『ありがとうございます。日本語があまり上手ではないですね。
間違っているところがあったら教えてくださいね。翻訳機を使っています』
翻訳機を使ってる割には、返信スピード早すぎだろ!
と思いつつも、俺はこう返した。
「わかりました。鬼滅の刃とワンピースが好きなんですね?」
これ、X(旧Twitter)の投稿から拾った情報だ。
向こうが俺を分析してくるなら、こっちもやる。
『好きです!それからワンピースも大好きです!
鬼滅の刃もかっこいいですよ〜ww』
まぁ、その辺言っときゃ間違いないやつな。
そして話題は自然と文化交流っぽくなってくる。
『台湾でも日本のアニメは人気です。
名探偵コナンの映画も大流行です!』
コナンまで追加してくるあたり、なかなかやるな。
「私は今、小説を書いていて、アニメ化されることを夢見ています。とても難しいですが、挑戦します」
ここで、あえて“夢語り”をぶつけてみる。すると──
『本当に素晴らしいです!挑戦し続ければ必ず実現できますよ!』
励ましのクオリティが高い。
どんな詐欺AIを搭載してんだ、林静。
調子に乗って、Xのプロフィールの日本語まで添削してみた。
「“ます”が抜けている部分がありました。正しくはこうです。
『旅行が大好きで、40歳までに世界一周をしたいと思っています』ですよ」
すると、想定外の反応が返ってきた。
『ご忠告ありがとう〜!あなたはまるで優しいお姉さんのようですね〜』
……お姉さん!?!?
性別すら間違えてくるとは……
翻訳機の限界か、それとも天然のふりか。
「私は男なので、お兄さんです」
と訂正する。実際はおじさんだが。
『ごめんなさ〜い!あなたは優しい“お兄さん”でしたね〜(笑)』
謝罪が軽い!
だが、これで確信した。
林静は、性別も話題もズラしながら信頼を取りにくるプロである。
まさか詐欺師に「お姉さん」と呼ばれて
「違います、お兄さんです」と訂正する日が来るとは──
人生、何が起こるかわからない。
『今日はもうお仕事終わりましたか?
もしまだだったら、邪魔していないといいんだけど~』
……うん。
邪魔どころか、
ちょっとだけ癒されてしまっている。
この時点で、まだ会話は開始10分。
でも、ここまでのスピード感で:
•LINEへの自然な誘導
•アニメ好きを装って親近感を演出
•翻訳機で“初心者感”を出す
•性別をズラして距離感を縮める
詐欺師の教科書に載せたい完成度である。
『お友達と焼肉ランチ行くので、返信はまた夜になります。』
そして俺は、まんまと誠実に返していた。
「祝你一天过得愉快」(いってらっしゃい)
『中国語も話せるし、すごいですね!』
「話せません。翻訳しました」
『もう素晴らしいですね!
私の日本語も翻訳機ですよ!
まだまだ勉強中ですよ〜』
──こうして俺の心は、
一見無害そうな詐欺師の言葉で、じわじわとほぐされていった。