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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
トビアスと建国祭

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42/42

第42話 保健室は真っ白ですわ!

「背中の傷はどう?」

「もうすっかり良くなりました。トビアス先生、薬ありがとうございました」


今日はトビアスに薬のお礼を言いに、保健室にやってきていた。

背中を鞭で打たれたあの日。

ライがどこからかもらってきてくれた薬は、どうやらトビアスにもらってきていたらしい。

トビアスはモンクレージュ学園の校医なのだから、シェルリンの傷の手当をするのは当たり前なのだろうが、今回傷の場所が背中ということもあって、トビアスは手当をしていない。

こちらのわがままなのに薬だけというイレギュラーな対応をしてくれたので、そのお礼というわけだ。

屋敷で料理長に作ってもらったナッツの入ったクッキーを手渡す。

トビアスはにこやかに「美味しそうだなぁ。今お茶を入れるね」と手際よくお茶を淹れ始めた。

渡すだけ渡して寮へ戻ろうと思っていたが、すぐにお茶を淹れ始めてしまったトビアスに断る暇がなかった。

仕方がないので、席に着きトビアスを待つ。


魔導ポットでお湯を沸かし、その隣の小型の魔導コンロでトビアスはミルクを温める。

その姿を見ているうちに、はっと気がついた。


「トビアス先生は、青を着ませんの?」

「あぁ、今月は建国祭があるからどこも青、青、青だから、青のないここが異様に感じるよね」


トビアスがシェルリンの髪に目をやりながら笑う。

今月は多くの女子学生と同様にシェルリンもライにもらった髪飾りに加えて青、白、水色のストライプのリボンをつけている。

「似合っている」と褒めながら、トビアスが淹れたばかりのミルクティーを手渡す。


「私も、この部屋も青は飾らないよ。私は医療者だからね」


トビアスの言っている意味が分からず、押し黙る。

これは、知っていて当然の知識なのか? 記憶があればその意味が分かるのだろうか……と黙っていると、トビアスは何を気にした様子もなく、続きを話し始めた。


「シェルリンさんはユリウス王子と仲が良いんだっけ? じゃあ王宮の医療塔は見たことある?」


確かにユリウスとは幼馴染らしい。だけど、ライの話を聞けばかかわりがあったのは小さい頃だけだったようだし、医療塔について知らなくても不自然ではないだろう。


「いえ、何分幼い時のことですので……医療塔になにかあるんですか?」

「じゃあ覚えていないかな。医療塔って真っ白なんだよ。流石に国旗が飾られている場所はあるんだけど、それ以外は一切青がない」


周りを見渡す。

そう言えば、この保健室も真っ白だ。

青は一切ない。

アルマブルーは国の色だから、建国祭でなくとも国の重要施設にはどこかしらに青が使われていることが多いのに。


「古い言い伝え。青は魔力を表すって知っていた? でも私たち医療者は魔力抜きで己の仕事を成す。そういう信念で患者と向き合っている。だから我々は青を纏わないんだ。その代わりと言っては何だけど、年がら年中残りの白色を着ているってわけ」

「まぁ、それで」

「もしも病を治す魔法があったとしても……僕は使いたくないな。あぁ、魔導具は使うけどね、便利だから」


トビアスの向こうにある魔導具を見る。

魔導具のポットにコンロに冷蔵庫。確かにパッと見ただけでもたくさんの魔導具がある。


「どうして……ですか?」


「例えばこのジンの木の実は栄養価が高く、疲労や食欲不振に効果がある。けれど、もし病や怪我を治す魔術が出来たらこの知識はすぐに廃れてなくなるだろうね」


シェルリンが持ってきたクッキーに入っている木の実を指さしながら話し始めた。

トビアスが言いたいことはこういうことだった。

魔術で病や怪我を治してしまえば、今ある薬の知識、人体の知識、病や怪我に関する

知識もすべてなくなってしまう。

そしてもしも何かしらの理由で魔術が使えなくなることがあれば、大量の死者が出る。


「それに魔術を使えるのは貴族だけ。でも、病や怪我に身分は関係ない。つまり平民は医者にかかれなくなるわけだけど、それってどう思う?」


紅茶を飲みながら、じっとトビアスがシェルリンを見つめる。

何故だか張り詰めたような空気になったが、シェルリンが「それは困りますね」と間髪入れずに答えれば、すっと緊張感ある空気は雲散していた。


「そう、だから医療に魔術は必要ない。勉強して、理解が出来ればだれでも医療者になれる。そういう今の方法がいいんだ」




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